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Front Interview
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第3話 第4話
Vol.015 早稲田大学ビジネススクール教授 商学博士 松田修一第2話 若き血潮の深化
コラム(2) パーソナル・データ(2)
命を賭した監査
 サンワ事務所に入所してからは九州支社、大阪支社と転勤が続きました。大阪支社時代でもっとも厳しかったのが三井物産審査部の仕事でした。三井物産には1,500社ほどの関係会社があり、また何万という取引先企業があります。商社は銀行が資金を貸さないような企業にも自ら判断して金を出すことがあります。これが商社金融ですが、三井物産審査部はこうした融資の可否について、その判断や基礎となる情報を私たちに求めてきたのです。
  公認会計士の法定監査は売上100億円程度の会社でも3カ月はかかるのが普通です。しかし三井審査部からの要求は、1,000億円規模の会社であっても2週間で結果を出すものでした。もっとも急かされたのはわずか3日で結果を出してほしいというものでした。三井物産が調査を依頼してくるのは、なんとか取引を続けたいという思いがあるからです。しかし相手はそうは思ってはいない。「うちを潰しに来た」と疑心暗鬼になっています。社長は出てこないし、調査に協力的ではないどころか、ことごとく妨害してきます。相手は生きるか死ぬかという気持ちですからね。とにかく「あなたを助けるためのデータづくりをするのです」と説得しました。
  この時は旅館に部屋を取ってもらい、社長にも「3日間は夜の12時まで居てください」とお願いし、不明なところがあればすぐに確認できるようにしました。もちろん不眠不休です。相手はこちらが本気だと感じると次第に協力的になってくれました。もちろん調査した会社のすべてがハッピーな結論になるわけではありません。なぜこのようになったのか、こうなる前に相談してくれれば救う方法はあったのにと残念に思う会社もたくさんありました。

トップ営業という研修プログラム
 東京本社に戻ると日本IBMから社員研修の仕事が待っていました。それまでその研修では大学の先生がMBAのケースを使用していたということです。私は同じことをやってもおもしろくないと思い、「営業マンが興味を持てる会計知識」をテーマにした研修プログラムを提案しました。IBMからは「お客様のトップへのプレゼンに直接つながる研修ができないでしょうか」という答えが戻ってきました。私はそれまでに150社ほどの企業調査をしていましたから、各業種にどんな問題があるのかはわかっていましたし、決算書を見れば企業の成長可能性もある程度わかるようになっていました。その知識を基にすれば可能だと思い依頼を受けました。
  IBMの営業マンは、たとえ若手社員でも「トップに会って話をしろ」という教育をされます。企業のトップは時間がありませんから些末な話につきあってはくれません。私は「トップが責任を持つべき数値と、それを構成しているコア部分を鋭く突いたプレゼンテーション」を念頭に研修プログラムを作りました。具体的にはまず会計と企業に関する一般的な講義をします。それを基にIBM営業マンは、担当先の問題点などを自ら洗い出して私に提出する。そのレポートについて、営業マンと私が2時間ほどディスカッションをする。その結果を営業先の社長にぶつけるという流れで、時には営業相手の社長を呼んで一緒にディスカッションしたこともあります。まさに営業と直結した研修になりました。
  IBMの営業先は高価なコンピュータを導入できる業績の良い会社ばかりで、あらゆる上場企業について、その内容をじっくりと調べることができました。この経験は私の企業を見る目をさらに豊かにしてくれたと思っています。


(5月16日更新 第3話「成長の要因」へつづく)  




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