サンワ事務所に入所してからは九州支社、大阪支社と転勤が続きました。大阪支社時代でもっとも厳しかったのが三井物産審査部の仕事でした。三井物産には1,500社ほどの関係会社があり、また何万という取引先企業があります。商社は銀行が資金を貸さないような企業にも自ら判断して金を出すことがあります。これが商社金融ですが、三井物産審査部はこうした融資の可否について、その判断や基礎となる情報を私たちに求めてきたのです。
公認会計士の法定監査は売上100億円程度の会社でも3カ月はかかるのが普通です。しかし三井審査部からの要求は、1,000億円規模の会社であっても2週間で結果を出すものでした。もっとも急かされたのはわずか3日で結果を出してほしいというものでした。三井物産が調査を依頼してくるのは、なんとか取引を続けたいという思いがあるからです。しかし相手はそうは思ってはいない。「うちを潰しに来た」と疑心暗鬼になっています。社長は出てこないし、調査に協力的ではないどころか、ことごとく妨害してきます。相手は生きるか死ぬかという気持ちですからね。とにかく「あなたを助けるためのデータづくりをするのです」と説得しました。
この時は旅館に部屋を取ってもらい、社長にも「3日間は夜の12時まで居てください」とお願いし、不明なところがあればすぐに確認できるようにしました。もちろん不眠不休です。相手はこちらが本気だと感じると次第に協力的になってくれました。もちろん調査した会社のすべてがハッピーな結論になるわけではありません。なぜこのようになったのか、こうなる前に相談してくれれば救う方法はあったのにと残念に思う会社もたくさんありました。 |