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Vol.017 独立行政法人中小企業基盤整備機構 理事 後藤芳一第2話 俯瞰図から思想図へ
コラム(2) パーソナル・データ(2)
技術は必要条件のひとつ
 1981年から1983年と1988年から1990年に、通産省の機械情報産業局で航空機を担当していました。かつて、YS-11の事業を政策として進めた課です。私は、ボーイング767や777やFSX(次期支援戦闘機)などのプロジェクトに関わりました。
たとえば767では、国が三菱重工などのメーカーに開発費の半額136億円を補助しました。補助金は航空機が売れるごとにメーカーから返済されて、結局、全額が戻りました。この補助が側面支援となり、767では15%であった日本メーカーの開発・生産比率は、最新の787では35%にまで高まりました。
  航空機の仕事で痛切に感じたのは、「技術の優位が、事業の成功に直結しない」という事です。「技術はよかったんだけど」というフレーズを何度聞いたことか。たとえば、YSは優れた飛行機でしたが、事業として成功しませんでした。その教訓は「個別の製品として優れていても、商品ラインとして提供できなければだめ」ということです。ロッキード社のトライスターも、優れた自動操縦装置をもつ名機でした。ダグラスにも、すばらしい技術がありました。が、結局残ったのはボーイング。ハイテクに見える航空機でも、技術は必要条件のひとつということです。

価値の源泉はどこにあるか
 航空機事業では、プロジェクトを主導する企業とその他では見える世界が違います。主導するには、商品のコンセプトを考えて、価格政策から事業運営を含めた事業モデルを作るプロデュース力が要ります。ボーイングは、こうしたとりまとめ力と戦略をもって国際市場でプレーしているわけです。航空機については、開発の歴史などのハンデがあるので仕方がないところもありますが、製品や事業の分野を問わず、技術力や個人の能力が高い割に、プロデュース力という点では日本人は課題が多いと思います。 典型的なのは、アップルのiPodと、国内メーカーがつくるMP3機の違いです。iPodは初めからネットを通じて100万曲をダウンロードするという、ソフトと融合したものが「商品」です。したがって、ハードの部分だけは同じ性能というものとは、まったく別のコンセプトです。アップルは、最初からそうして企画したわけです。またその一方で、iPodの基幹的な部品は日本の電子部品メーカが作っているという事実があります。 これをどうみるか。我々の国民性は、形として見えるものや具体的な例が好き、事例をつみ上げる帰納法が好きということで、自動車などはそれでいいのでしょうけど。ハード指向だけでは、あとから次々に追いあげられます。モノ作りが強いからこそ、それを活かしたエンジニアリング、企画、プロデュース力を磨くことが必要です。ソフトの価値を低く見がちな我が国には、それは大きい挑戦になると思います。通信や金融、物流といったこれからの経済を決める分野では、こういう構想力やデファクトを押さえる力の有無が成否をわけるわけですね。

名前や大きさだけでは判断しない
 私が中小企業と本格的におつきあいするようになったのは1993年後半からでした。福祉用具法ができて国が支援していく事になったのにあわせて、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)へ出向し、福祉用具の開発を支援する補助金の担当になりました。 
  航空機の仕事に携わっていた頃は会社でいえば三菱重工、IHI、東芝といった大企業が相手でした。しかし福祉用具の世界は業界自体が未整備でした。関わる企業は、もともと同族の企業が多かったのですが、名前が知られた企業であっても大手企業の子会社、規模の小さいもののうちには、生業に近い企業や個人営業の工房、ベンチャー企業といったぐあいでした。あとで、その分野の巨人や名人たちとわかるのですが、最初は、地図のない世界に入ったような気がしました。
  大阪生まれの私は、会社を名前や大きさだけで判断しない、中身が大切と思っている方です。しかし補助金を申請してくる企業は小さいところも多くて、教科書通りに決算書をチェックすると、大半が要注意案件になってしまう。これは困りました。良質な福祉用具の開発に資金を提供したいと思っていても、財務を重視すると案件が残らないわけです。そこで決算書などのチェックを後回しにして、案件の中身を吟味することにしました。まずは補助金に値する企画を選ぶ事にしたわけです。こういうことをしていたので、あとで中小企業政策を担当することになったときに、目にする企業がずいぶん立派で、大きく見えたものです。低い目線から入ったということかも知れませんね。




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