さて、福祉用具の補助金の話ですが、提案された開発企画を選ぶ際に、もっとも注意したのが実用化に結びつくかということでした。実は通産省ではそれまでにも福祉用具の研究に予算をかけていました。たとえば「盲導犬ロボット」です。ロボットはできても、外にでて段差があると止まってしまいます。研究面では成果があったのでしょうが実用化とは遠いものでした。「通産省が盲導犬ロボットに予算を出した」と聞けば、利用者の方は「自分たちにも、盲導犬の替わりの目が手にはいる」と期待するわけです。そこで、この法律は、こんどこそは実践的にいこうということで、福祉用具実用化開発の助成を行うことにして、「実用化」に特に配慮することにしました。 提出された企画の内容が良いと、そこで財務をみます。補助金を申し込んでくる企業の貸借対照表・損益計算書を見るのですが、中小企業の場合には結構バランスがイビツだったりします。帝国データバンクの格付けでCなら十分、Dでもなんとか考えます。データがあればまだいいほうですが、信用調査のデータがないものも多い。それでも補助金を出すには、貸借対照表か損益計算書をにらんで、そこから良い点を探し出して「会社の体力はある」「売上は出ている」「債務はいずれ消えそう」「周りが金融支援をやりそう」などと理由を考えて補助金を出していました。 なぜここまでしたのかと言えば、一つは私がこの補助金の初代担当だったからです。あとに続く人が、条件をゆるめる方向に変えるというのは簡単ではありません。そう考えて、可能なかぎりゆるい条件にしました。もし、不正使用などの事故があって検査などで指摘されれば、徐々に厳しくするようにと考えて、そのマージンを残したというと変ですけど、かなりの性善説から始めました。もう一つの理由が、市中の銀行ができないところをカバーするのが私たち公的機関の仕事と思っていたことです。もちろんこれは私の判断だけでなく、上司もそれでよいと背中を押してくれました。
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