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VC vision
前編 後編
第24回 企業エナジーとしてのベンチャー 前編 技術集団というリソース
株式会社日立製作所から独立する形で設立された
ネクスト・ハンズオン・パートナーズ株式会社は、
大手企業と中小企業のベンチャー・連携を掲げた
新しいコンセプトを提供するベンチャーキャピタルである。
日本の大手事業会社がベンチャー・中小企業をサポートし、
新事業立ち上げに貢献しようというこのプロジェクトは、
日立製作所が他の大手事業会社に
先鞭をつけてスタートさせた新しい取り組みでもある。
以頭博之社長に、大手事業会社が中小企業支援に乗り出した、
その目的と意義について話をうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
パートナーズ主な投資先事例
中小企業の底上げに大企業が関与する

【森本】 まず、設立の経緯と、日立本社とはどのような位置づけにあるのかというところからお聞かせください。
【以頭】 ネクスト・ファンドは2005年5月にスタートしていますが、私たちがファンドのプランを立案した時期を含めると、さらにその1年前の2004年の初めころから計画は始まっていたといっていいと思います。時期としては、いざなき景気を超える長期間の景気上昇がちょうど始まったころでした。このファンドを設立したときの問題意識は、大企業の自前主義を破って、中小企業を含めた社外にもイノベーションの芽を求める必要があること、そして、それが同時に中小企業の底上げにつながるのではないか、ということでした。当時、伊藤忠グループなどでも中小企業基盤整備機構の「がんばれ!中小企業ファンド」の枠を使ったファンド展開が進められていて、日立グループでもそうしたファンドができないか、という話がありました。具体的には、日立が運用するファンドを立てて、日立と中小企業基盤整備機構が出資して、中小企業・ベンチャーに投資していくスキームを作れないかということでした。
【森本】 そのころ、日立本社では、すでにコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を展開されていたわけですね。
【以頭】 はい。CVCと新しいファンドの関係ですとか、新たにファンドを作る意味についての議論をしました。結論的には、ベンチャー企業を含めた中小企業を支援するということと、その投資案件を日立グループが活用するという2本柱で、日立製作所のCVCとは別に独立させたファンドの設立が、経営会議で認められてスタートすることになりました。そこで、ネクスト・ハンズオン・パートナーズというベンチャーキャピタル会社を立ち上げたということです。
【森本】 以頭さん自身が、日立本社内で提案して実現したのですか。
【以頭】 CVC室の立場でファンド準備室を作り、そこで10人弱のメンバで半年間検討しました。そして提案書を作り、日立の経営会議に提案しました。しかし、最初のきっかけは、日立製作所の庄山社長(当時)のもとに来た中小企業庁からの打診だったと思います。その後、社長から検討せよとの指示がCVC室に下りてきて、そこからさきほど話したように検討して提案したのです。ただ、日立グループのそれ以外の部署にもいろいろなルートで話が行っており、検討の過程で多くの方の支援がありました。それらの方々の意見も採り入れながら、CVCの準備室で計画を練り承認まで漕ぎ着けたということです。私の着想で私ひとりで提案して実現したということではもちろんありません。
【森本】 以頭さんは、日立本社のCVC室に在籍されていたのですね。
【以頭】 はい。そして、この提案したファンド事業をスタートするため、ネクスト・ハンズオン・パートナーズ株式会社を立ち上げることになり、私は出向で日立製作所から移ったということです。

投資活動に特化したコーポレートベンチャー

【森本】 以頭さんご自身CVC室に配属される以前はどのような経歴をたどっていらっしゃいますか。
【以頭】 もともとは大型コンピュータのハードウェアやLSIの研究開発をしていました。技術やシステムの規模からいうと大手企業ならではの分野でして、そういう意味で、今のベンチャーキャピタルの仕事の対極にある分野でしたね。その後、事業部と研究所でマルチメディアやネットワークの技術開発に関わったあと、CVC室に異動になりました。そのとき期待されたことは、ベンチャーの技術的な目利きだったと思います。しかし、一つの技術に秀でていたとしても目利きができるわけではありません。勘は利くかもしれませんが、さまざまな分野を知っているわけではありませんから。でも、CVC室にきて、そういう不安を払拭するに十分なくらい、ベンチャーの世界はダイナミックで魅力的な世界だと実感しました。
【森本】 日立本社のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)とネクスト・ハンズオン・パートナーズとの関係はどう整理されているのですか。
【以頭】 ネクスト・ハンズオン・パートナーズの設立当初は、両者の線引は、あまり認識されていなかったと思います。設立から3年近くを経過した現在までの間に、だんだんと両者の分担が意識されるようになってきたという感じです。
【森本】 具体的にお話しいただけますか。
【以頭】 日立本社の中でのコーポレートベンチャーキャピタルと、独立会社として展開するベンチャーキャピタルとは、活動内容がかなり違うと思っています。たとえば、ファンドにしても、外部から資金を得、ネクスト・ハンズオン・パートナーズという運用専門会社がやる、いわば正式なファンドと、日立製作所自身の資金でベンチャー投資を進めるファンドでは、活動目的や投資対象・方針が自ずと変わってきます。日立本社のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC室)では、投資以外にもいろいろな側面で活動を行う必要があります。つまり、ベンチャービジネス全体の動向や、もっと広く日立の関係するいろいろな技術分野の状況など、投資だけでなく、情報収集、分析などのベンチャーに関するあらゆることが業務になります。そのような活動を踏まえ、日立自身のために投資資金を活用することになります。一方で、ネクスト・ファンドは、中小企業支援という側面を持たないといけないものの、独立性、機動性という意味で、日立本社のコーポレートベンチャーキャピタルよりも高いメリットを発揮できます。また、投資活動だけに特化して動けるので、中小企業の支援と日立での活用を主眼においた投資活動という点で、独立展開の今の形態は、非常に有効だと思っています。
【森本】 コンセプトや資金集めなどのファンドの立ち上げまでの経緯はどうでしたか。
【以頭】 当社のファンドは、一般のベンチャーファンドとは設立のプロセスがやや異なります。最初に中小企業基盤整備機構からファンド提案の要請があったため、ファンドのコンセプトが合致すれば出資していただく可能性は高かったと思います。ですから、当ファンドの出資者は、中小企業基盤整備機構と日立製作所の2者(正確には運用責任者であるネクスト・ハンズオン・パートナーズを含めた3者)だけで、両者の合意が得られればよかったわけです。ファンドレイズでの苦労は通常のベンチャーキャピタルファンドよりは小さいものだったと思います。




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