【森本】 その両者にはどのような話をされたのですか。
【以頭】 日立本社に対しては、中小企業基盤整備機構の施策に対応したファンドが、日立グループの新規事業開発にも役立つ中小企業支援ができることを説明しました。日立製作所にとっての意義と日本の産業育成の両者にかなうファンドであるということです。一方、中小企業基盤整備機構には、日立製作所がこのファンドを十分サポートすることを説明しました。
【森本】 通常のベンチャーキャピタルのファンドとは、どこか違う点があるのですか。
【以頭】 このファンドに期待されている点は、極端なリターンではなくて、大手事業会社がうまくサポートして、投資先のベンチャー企業の存続、拡大ができる仕組みを作ることにあると思っています。ですから、日立グループがうまく関与しながらベンチャー企業や中小企業を支援する仕組みにしていかなければなりません。日立製作所がお金を出すだけでは意味がないということです。私自身も、このファンドを通じて大企業と中小企業の連携がうまくいくことを証明したいと思っていますし、同時に、中小企業の人たちも、それを願っていると思います。
【森本】 ファンド総額は40億円ということですが、償還に向けてどのように投資を進めておられますか。
【以頭】 8年間の投資期間を設定していまして、淡々と投資を進めていくつもりです。一般的にファンドの期間の前半分くらいで投資しないと回収が難しくなりますから、あと1、2年で累積30億円強の投資を終えることが目標になります。ただ、LP(リミテッド・パートナー)である中小企業基盤整備機構と日立製作所の合意があれば投資期間を3年延長できることにはなっています。
【森本】 ファンドのポリシーはどんな点を特徴にしていますか。
【以頭】 先ほどお話しいたしましたように、中小企業と大手企業の連携をポイントにしていますから、資金提供だけ、あるいは事業連携だけということではなくて、資金的ニーズと事業連携のニーズの両方を兼ね備える案件に向けて投資するということになります。我々はこれを「投資意義」と呼んでいるのですが、その意義のある企業への投資を目的としています。これは当たり前のような話ですが、実は、なかなか難しい点でもあります。たとえば、日立グループと何らかの事業連携を持ちたいという企業は結構多くあります。しかも、その中で、資金は必要ないけれども事業を一緒にやりたいという企業も少なくありません。ただ、そういう企業には、このファンドで投資する意義はないので、日立グループの事業部を紹介するなどはしますが、我々の投資の対象にはなりません。逆に、事業提携以前に資金がほしいという技術系の企業も多数あります。そこで日立グループとどういう事業ができるかという話になると、日立のことをあまりよく理解しないで来られる経営者も少なくないのです。ですから、大手企業との事業提携でお互いのwin−winのイメージを描けるベンチャーや事業に投資することが、重要なポイントになります。
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