【森本】 日立グループがこうしたベンチャーキャピタルを進める目的はどこにあるのですか。
【以頭】 日立グループは基本的には技術者集団です。しかも、これまでは日立グループの中の閉じられた世界でやってきました。技術開発を一生懸命にやって、事業につなげるその過程で、他社の力を借りたり、他社と一緒にやるというより、日立グループだけで完結してやっていくという思考パターンでやってきたと思います。それに対して、このファンドは、それだけではやっていけないのではないかという一つのアンチテーゼになっています。日本の産業社会も、そうした多様な連携で新しい事業を起こす動きが活発化し始めていますから、日立グループもこれまでの意識を大きく変えていかなければなりません。また、技術者自身も、金融的考え方を持たないといけない時代になっているとよく言われます。確かに、私自身も含め、これまで技術者は、何千万円もする装置を導入する提案書を割と簡単に書いて買ってもらったりしていたのですが、そこには金融的な考え方も入れた事業全体をみる視点が不足していたと思います。
【森本】 なるほど。
【以頭】 確かに事業部でも、利益曲線を描いて収益性のある新事業のプランを立てていますが、金融的技術をも駆使して、何としてでも利益を上げる計画を作っていくという意識は、必ずしも十分ではないのではないか。こういう言い方をすると怒られるのですが。これからの技術者は、これまでにはなかったファイナンスの発想を持ってやっていかなければならなくなっているのではないでしょうか。ですから、外部のスペシャリストと一緒にやらなければならない場面もありますし、その際には、売上げを向上させるという発想だけではなく、投資に対するリターンがどういう関係なのかまでを知っている技術者が求められるのだと思います。
【森本】 日立製作所から別法人になったということで、日立グループの利害から外れた活動はできるのですか。
【以頭】 「日立」という名前がついていないので、「日立」の名前を背負うという重荷は表面的には薄まりますから、わりと自由だと思ってはいるのです。ただ、最初は、不安なことでもありました。たとえば、電話をしても、「お宅どこの人?」といった反応が多く、日立グループの社内に電話をしても同じことがありました。しかし、今となってみると、日立グループとのしがらみがないと受け取っていただけるので、逆に多くのベンチャーと接触しやすくなったメリットはあります。結局、私たちはベンチャーと日立の間の立場に立って、両者の利益を追求しないといけないと思います。
【森本】 現在のスタッフはどのようなバックグラウンドを持った方々で構成されていますか。
【以頭】 現在、投資担当が4名います。4名以外は、外部のアドバイザリーが非常勤でいます。4名は、全員、日立グループからの出向者で、日立製作所と日立キャピタルから来ています。このメンバーは、新しいファンドを立ち上げるために、それぞれの専門知識が必要だといって集めたというより、ファンドの位置づけに賛同して集まってきてくれた人に、ファンド準備室に入ってもらい、結果的にこの会社の初代メンバーになってもらったのです。
【森本】 人事部からの辞令で配属されたわけではなく、主体的に集まってきたメンバーだと。
【以頭】 少なくとも最初は主体的に集まってもらいました。もちろん、新会社への出向は正式に辞令で異動したわけですが。
【森本】 案件の発掘では、独自に動くことはないのですか。
【以頭】 まだ十分ではありませんが、いろいろなベンチャーの会合やプレゼンに参加しています。そこで直接ベンチャーの人と話をしたり、人を介して紹介してもらったりということはあります。
【森本】 メンバーの独自のディールソースはあるのですか。
【以頭】 4名しかいませんから、あまりシステマティックには動けなくて、それぞれが独自に案件を探してきたり情報を得たりして提案するというスタイルが多いです。
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