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VC vision
前編 後編
第24回 企業エナジーとしてのベンチャー 後編 事業連携という投資
ネクスト・ファンドが設立されて3年が経とうとしている。
具体的な投資回収はこれからの段階だが、
大手企業が所有するリソースを使った
ベンチャーの新規事業件数は着実に増加している。
大手企業と中小企業がうまく連携していくには、何が大事なのか。
以頭博之社長に、日立グループの考えを含め、
そのポイントと課題をうかがった。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
パートナーズ主な投資先事例
事業部の担当者支援の意味が大きいファンド

【森本】 それなら事業部のほうで投資すればいいわけですからね。
【以頭】 ですから、いろいろな可能性の中で、事業化までは具体化していないものの、事業部の担当レベルの人が関わっておきたい、いっしょに進めたいというベンチャーであり、かつ、そうは言っても事業部から予算が出る段階にはない、というレベルが、我々が一番投資すべきベンチャーになります。別な言い方をすれば、このファンドは事業部の担当者を支援するという意味が非常に大きいと思っています。逆に、事業部の担当レベルで関心が低い案件は、投資対象にするのは難しいということになりますね。
【森本】 そこは、CVC室とは異なるポイントですね。
【以頭】 もちろん、CVC室でも事業部の意見は重視するのですが、CVC室は、日立の将来にとって有益であるとCVC室自身が判断するものは、事業部が当面は関心を示さなくても出資することもあります。それは日立本社の資金で運用しているからです。しかし、このファンドは、中小企業基盤整備機構からも出資を受け、中小企業支援を看板に掲げて日立グループが産業育成に貢献すると言っているので、日立の事業部の支援がどうしても必要になります。それは、私たち4人だけでは力不足だということでもあります。厚い支援を行いながら、社会的意義とか理念を重視した志の高い進め方をしたいと思っています。たとえば、小さなベンチャー企業が環境維持や回復のために一生懸命やっているのを支援できたらいいと思います。志が高い事業を何とか支援できる道はないかと探る、そういうような考え方をしていきたいのです。
【森本】 そうした事業や企業に投資する額はどれくらいがベースになるのですか。
【以頭】 それもケース・バイ・ケースですが、一般的にはアーリーステージであれば数千万円でしょうし、ミドルからレイトステージでも、私たちの実力からすれば何億円から十何億円という額は無理ですね。私たちのこれまでの実績では、平均7千万円程度でしょうか。
【森本】 投資対象は、日立グループの事業に関連するものに限定されると考えていいわけですか。
【以頭】 そうなりますね。そして、日立のポリシーに反するような事業内容や事業形態は無理ですね。その意味で、日立グループとして慎重にならざるを得ない面はあります。たとえば、人に危害を加える危険性の高い事業内容などには、相当慎重に臨まねばなりません。そういういくつかのファクターがあるのですが、それ以外であれば、別にインフラであれ、コンシューマ向けであれ、材料、アプリケーション、どのような分野でも可能です。
【森本】 カーブアウトについては、どうお考えですか。
【以頭】 カーブアウトの支援も考えています。実際、日立内からのカーブアウトの相談に来る人が結構います。カーブアウトの相談の中には、本人たちが決心して会社をつくれば、当社で投資して事業を進められる可能性のある話もあります。もちろん、そのカーブアウトが日立に承認されないといけませんが。ただ、カーブアウトも含まれると思いますが、もともと、数十人から数百人、あるいはそれ以上の事業再編は、日立内で立案、実行してきたわけです。しかしながら、3、4人程度の少人数で行う小規模のカーブアウトを支援する仕組みがないように思います。だから、こうした少人数のカーブアウトを手がける必要があるのではないかと思っています。ただ、カーブアウトを煽っているように取られたくはありません。いろいろな選択肢のうちの一つとしてカーブアウトを入れてはどうですか、と言っているのです。今のこのファンド活動からは若干趣旨がそれるかもしれませんが、そうしたカーブアウト支援の仕組みがあれば、日立全体の人材や知財などの有効活用も含め、もっと新しい形の大きな事業展開が可能になるのではないかと思います。

事業連携で世界に先駆けた商品やサービスを提供する

【森本】 3年間での投資実績の成果はいかがですか。
【以頭】 まだ、全部は公表していませんが、投資した企業は16社あります。内4社に追加出資をしていますので、出資件数としては20件になります。今のところ、IPOはまだありませんが、倒産した企業もありません。来年度には1〜2社の上場を目指しています。
【森本】 投資先への支援育成についてはどのようにされていますか。
【以頭】 正直にいって、まだ十分といえるほどにはうまく関われていないと思います。取締役に入っている会社もあれば、そうでない会社もあります。本当に深く関わるには、やはり、取締役に入ることが必要だと痛感しています。取締役にならないと会社の状況をつかめませんからね。
【森本】 投資先の価値向上に向けた施策はどのようにされていますか。
【以頭】 我々は日立グループのリソースを使ってベンチャーを支援するわけですが、我々の立ち位置は、日立グループとベンチャーの中間だと思っています。日立側がベンチャーに圧力をかけてくることがあったとしたら、我々は、その防波堤にならなければなりません。投資先の価値向上も、そういう視点で大きな視野に立って、投資先の立場を大事にしながら事業拡大を支援することだと思います。
【森本】 ネクスト・ハンズオン・パートナーズの独自性を生かした2号ファンドは考えていらっしゃいますか。
【以頭】 まずは、いまのファンドで実績を示さなければと思っています。ある程度これがワークすることが証明されれば、2号ファンドの話もできると思います。2号ファンドでは中小企業基盤整備機構だけでなく、他の出資者を募ってファンドのコンセプトを変えてみることも考えています。IPOの実績がいくつかできてきて、ハンズオンの手法が確立されて、日立グループ内でベンチャーと連携することが重要だという認識ができてからのことです。しかし、私は、そんなに遠い将来のことではないと思っています。今後も、日立グループにとって、何らかのファンド展開をすることは非常に重要なことになるはずですから。
【森本】 イグジットはIPOだけですか。
【以頭】 一番分かりやすいのはIPOですね。あるいは、M&Aや売却ということもあると思います。とにかく、数字で結果が出ることが成果を示すにはわかりやすいと思います。しかし、投資先がIPOする以前でも、日立との事業連携が実を結んで、いち早く世界に先駆けた商品やサービスを提供するというのも、良いパターンだと思います。ベンチャーと日立にとって何が良いことかを考えて、イグジットを目指したいと思っています。



インタビューを終えて

イノベーションの必要性が盛んに語られる今日、大手企業にとって、ベンチャー企業との連携は、国際競争を勝ち抜く意味においてきわめて重要になってきている。その成功は、日本の産業界総体のポテンシャルを国全体で生かしていく仕組みづくりにかかる。ネクスト・ハンズオン・パートナーズは、中小企業の底上げを大手企業との連携で成し遂げようという理念を掲げる。このコンセプトはきわめて時流にかなっていると思う。しかし、以頭博之社長の話を聞いた今回、中小企業全体の底上げの意義と大手企業の利害を一致させることには、実は難しい課題が横たわっていることが分かった。多種多様な新技術の中から、大手企業にとって有益なものがセレクトされるのは、ある意味仕方がないことである。問題は、大手企業の利益から外れながらも、有益な新技術、新事業に対して、大手企業が支援できうるかどうかである。国益にかなったベンチャー・中小企業支援をどうするかというテーマには、まだまだ解決すべき問題があることが浮き彫りになったと思う。(森本紀行)

次号第25話(2008年3月5日発行)は、カーライル・ジャパン・エルエルシー グロース・キャピタル・チーム 吉崎浩一郎さんが登場いたします。


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