【森本】 日本は小さいですね。
【吉崎】 まあ、投資を厳選していることもありますので。しかし、バイアウト投資をしているのは、アジア・グロース・パートナーズの中では日本だけで、バイアウト投資では50億円以上のエクイティの可能性もありますから、そうすると、投資金額での比率も大きく変わると思います。
【森本】 日本でのバイアウトとグロース・キャピタルの比率はどうなっていますか。
【吉崎】 我々が追いかけているディールの8割くらいはバイアウトです。
【森本】 そうすると、アジア全体の中で日本で投資できるグロース・キャピタルは、4%くらいで1割に届かないですね。
【吉崎】 そうです。ただ、良い投資機会があれば、比率は関係ありません。
【森本】 なるほど。
【吉崎】 また、定義的には、我々がバイアウトと呼んでいるものも、グロース、つまり成長投資としてみることができる場合もあります。我々は、「グロースバイアウト」という言葉も使っています。つまり、我々は成長企業への投資において、投資した結果がマイノリティ投資だとグロース・キャピタルで、マジョリティ投資だったらグロースバイアウトという捉え方をしています。ですから、日本では成長投資を考えた場合、マイノリティを前提にすると投資機会は少ないかもしれませんが、マジョリティを含めると投資機会はかなりあると思っています。
【森本】 他の投資会社のバイアウトファンドとの違いはどこにありますか。
【吉崎】 我々のチームは、レバレッジではなくて、そもそもそのビジネスに成長シナリオがあるのかどうかを注視します。その成長シナリオに投資するという考え方です。結果としてレバレッジを使う場合もありますが、まず見るべき点は成長性です。たとえば、3年後、5年後にある程度の成長が見込めるのであれば、それに対して設備投資がいくらかかるのかという計算を先にして、その企業の持つ既存のキャッシュで足りなければ、ファイナンスをいくらにするかを考えていきます。通常ですと、ファンドのリターンはIRRが重視されます。ですから早くエグジットすることも必要です。我々の場合は、重視するのはマルチプル、投資倍率です。ある程度時間がかかっても、3倍、5倍、それ以上のマルチプルをとっていきたいのです。5年後にそれが実現できるのなら、その5年に賭けたいという考えです。
【森本】 そこは、投資対象企業の経営者側の選択でもありますね。
【吉崎】 はい、そうです。ただ、一般的なバイアウトですごく難しいことは、利益を上げている対象会社の経営陣にLBO(レバレッジ・バイアウト)をしましょうと話を持ちかけたとき、「対象会社の株式購入にレバレッジ、借入金を利用すれば、5年後には企業価値が上がらなくともレバレッジを返済した分で株式価値が上がります」と説明しても、「我々は5年後にいなくなるわけではなくて、10年、20年後もこの会社にコミットしていこうと思っている」という話をされるわけですね。つまり、もっと先の事業を見据えていて、短期的な株式価値の向上はあまり関係ないのです。そういう長期的戦略で経営されている企業の目線は、ファンドの目線となかなか合わないという問題に直面することがあります。そういう中で見ると、単純なLBOではなく、成長投資といいますか、3年後、5年後に事業を成長させるための資金投入を前提に投資をしていくこということは、一つの考え方ではないかと思います。
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