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VC vision
前編 後編
第25回 日本発ベンチャーの可能性 前編 グローバルなファンド展開
米国の大手バイアウトファンドとして知られる
カーライル・グループが日本に進出したのは、2000年のことである。
大規模なグローバルファンド展開を続ける同社は、
いかなる国際戦略の下、ベンチャーキャピタル事業を実施しているのか。
ファンドのコンセプトならびに、同社の独特の投資戦略について、
日本法人であるカーライル・ジャパン・エルエルシーの
吉崎浩一郎氏にお話をうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
主な投資先事例
3年後、5年後の事業を成長させるための投資

【森本】 日本は小さいですね。
【吉崎】 まあ、投資を厳選していることもありますので。しかし、バイアウト投資をしているのは、アジア・グロース・パートナーズの中では日本だけで、バイアウト投資では50億円以上のエクイティの可能性もありますから、そうすると、投資金額での比率も大きく変わると思います。
【森本】 日本でのバイアウトとグロース・キャピタルの比率はどうなっていますか。
【吉崎】 我々が追いかけているディールの8割くらいはバイアウトです。
【森本】 そうすると、アジア全体の中で日本で投資できるグロース・キャピタルは、4%くらいで1割に届かないですね。
【吉崎】 そうです。ただ、良い投資機会があれば、比率は関係ありません。
【森本】 なるほど。
【吉崎】 また、定義的には、我々がバイアウトと呼んでいるものも、グロース、つまり成長投資としてみることができる場合もあります。我々は、「グロースバイアウト」という言葉も使っています。つまり、我々は成長企業への投資において、投資した結果がマイノリティ投資だとグロース・キャピタルで、マジョリティ投資だったらグロースバイアウトという捉え方をしています。ですから、日本では成長投資を考えた場合、マイノリティを前提にすると投資機会は少ないかもしれませんが、マジョリティを含めると投資機会はかなりあると思っています。
【森本】 他の投資会社のバイアウトファンドとの違いはどこにありますか。
【吉崎】 我々のチームは、レバレッジではなくて、そもそもそのビジネスに成長シナリオがあるのかどうかを注視します。その成長シナリオに投資するという考え方です。結果としてレバレッジを使う場合もありますが、まず見るべき点は成長性です。たとえば、3年後、5年後にある程度の成長が見込めるのであれば、それに対して設備投資がいくらかかるのかという計算を先にして、その企業の持つ既存のキャッシュで足りなければ、ファイナンスをいくらにするかを考えていきます。通常ですと、ファンドのリターンはIRRが重視されます。ですから早くエグジットすることも必要です。我々の場合は、重視するのはマルチプル、投資倍率です。ある程度時間がかかっても、3倍、5倍、それ以上のマルチプルをとっていきたいのです。5年後にそれが実現できるのなら、その5年に賭けたいという考えです。
【森本】 そこは、投資対象企業の経営者側の選択でもありますね。
【吉崎】 はい、そうです。ただ、一般的なバイアウトですごく難しいことは、利益を上げている対象会社の経営陣にLBO(レバレッジ・バイアウト)をしましょうと話を持ちかけたとき、「対象会社の株式購入にレバレッジ、借入金を利用すれば、5年後には企業価値が上がらなくともレバレッジを返済した分で株式価値が上がります」と説明しても、「我々は5年後にいなくなるわけではなくて、10年、20年後もこの会社にコミットしていこうと思っている」という話をされるわけですね。つまり、もっと先の事業を見据えていて、短期的な株式価値の向上はあまり関係ないのです。そういう長期的戦略で経営されている企業の目線は、ファンドの目線となかなか合わないという問題に直面することがあります。そういう中で見ると、単純なLBOではなく、成長投資といいますか、3年後、5年後に事業を成長させるための資金投入を前提に投資をしていくこということは、一つの考え方ではないかと思います。

アジアというプラットフォームで活動していく

【森本】 とくに地方にいくと、その考え方は有効だと思います。しかし、イメージが先行しているということはありませんか。
【吉崎】 確かに、イメージの部分がディスカウント要因になっている可能性はあります。ただし、カーライル・グループは投資期間が比較的長いファンドなのです。我々が投資を決めるときに、どういうプロジェクションを作っているかというと、バイアウトのときでも3年、5年、7年のプロジェクションを作っています。こういうやり方を継続していれば、いつかは、その手法が一般に広く理解されてくると思います。あとは実績を作っていくことです。ただ、マスコミなどでは、バイアウトファンドがこれだけ短期で売り抜けています、という報道の仕方をされてしまいます。本来なら、ファンドのコンセプトに則って議論すべきですが、結果だけ見て、短期で売り抜けている、と批判するのは短絡的な気がします。
【森本】 そうですね。短期展開にはダイナミズムがあるから、世の中も動くようになる面もありますね。
【吉崎】 そうですね。経営者がどう感じているかが重要な問題なのだと思います。基本的には、経営者が同意して、あるいはリードする形でエグジットされているはずですから、そこを無視して単純な議論はしてほしくないと思います。
【森本】 現行のファンド展開は、アジアの各地域、バイアウト、マイノリティなど投資にいくつかのポイントがありますが、一つのコンセプトをより強く切り出して打ち出していく予定はあるのですか。
【吉崎】 それは、今のところないですね。我々のチームでは、アジアのプラットフォームで活動していくことに価値を置いています。今、日本のビジネスを語るうえで、アジアは必ず出てくるキーワードですし、そういう状況で、同じチームで同じリスクシェアのアジア展開していることは、かなり強力な武器にもなっていると考えています。中国、インドの経済発展を見ると10年、20年は確実にこうした状況が続きます。アジアを対象にやっていく意味は非常に大きいと思います。しかも、外資系のファンドの中で、我々ぐらいの大規模な投資サイズを持っているファンドは、カーライル・グループだけです。グローバル展開、アジア展開はかなり強力な武器になっています。
【森本】 アジアの成長にリンクさせていくということですね。
【吉崎】 今、我々のチームでは3つテーマを掲げています。一つは業界再編。投資先企業の業界再編を視野に入れて、投資先の成長を進める戦略です。もう一つは、成長投資。3つ目がアジア展開です。ですから、アジアで成長の可能性を持つ企業を追っかけていきたいと考えています。現在見ていているバイアウト案件、マイノリティ投資案件は、この3つのテーマの何かにかかっているもので占められています。
【森本】 アジア地区を追いかけているファンドは、他に例はあるのですか。
【吉崎】 数々の動きがあるようですね。アジアを見ていくと、日本と中国ではぜんぜん状況が違って、中国が相当に盛り上がっていることがよく分かります。中国では中国のベンチャーキャピタルと、証券会社のプリンシパル系、シリコンバレーのベンチャーキャピタル、あと我々のようなアジアプレーヤーが参入しています。米国のプレーヤーは、みな日本を飛び越えて中国にいってしまっていますし、中国から日本に来て展開するベンチャーキャピタルはまだ少ない状況です。

後編 「成長シナリオへの投資」(3月19日発行)へ続く。


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