【森本】 カーライル・ジャパン・エルエルシーのグロース・キャピタル・チームが行っている投資展開の具体的な例をお聞かせいただけますか
【吉崎】 我々が投資した企業に、半導体の後工程のパッケージングをしている仲谷マイクロデバイスという九州の大分にある企業があります。売上げが約80億円あって、すでに相応の利益が出ています。この企業は、銀行からも手厚くサポートが出ていて、資金のニーズは十分間に合っている企業なのです。しかし、我々はここに15億円の投資をしました。なぜ、こういう企業で投資が実現できたかというと、半導体業界の中で、大手メーカーは前工程にシフトして、後工程を外注化する方向にあるのですね。その中で、仲谷マイクロデバイスがどのように成長する道筋があるか、例えばM&Aによる業界再編などを我々が提案していったわけです。そうしたプランに、仲谷マイクロデバイスが我々と共同で事業拡大を進めるメリットを判断して、投資できるようになったのです。投資後半年経ったいま、仲谷マイクロデバイスには具体的なM&Aによる事業拡大の話が出てきて、まさに、我々の支援が有効に機能する状況になってきているわけです。
【森本】 投資先の支援はどのようになさっていますか。
【吉崎】 我々自身が取締役として投資先の経営にしっかり関与することによって、経営者の意思決定に対してアドバイスできる環境、仕組みを作ることが最も重要だと思っています。また、M&Aが実施されるようになったときにどういう体制をとるかは、その時々の状況に応じてチームを作ります。我々カーライルのリソースを使ったほうがよければそうしますし、逆に外部の人員が必要であれば、一緒に探して雇うという形です。ケース・バイ・ケースで一番効率的な人材と体制を選んでいきます。
【森本】 ポストM&Aも重要ですね。
【吉崎】 M&A後、どうのように支援していくかについて 我々も数々の経験をしてきました。また、しかるべき経験のある人を投資先企業に紹介して対応しています。買収相手との統合をスムーズにするノウハウも、カーライル・グループのリソースが生きてくる部分だと思います。ただ、M&Aは安く買って高く売るという考えもありますが、値段の判断だけではなくて、我々が投資するメリットを投資先の経営者に納得をしてもらえるかが非常に大切です。この部分は教科書に書いていないところで非常に難しいのですが、その辺が我々の経験でうまく対応できるアピールポイントになります。
【森本】 米国ですと、バイアウト市場も確立していて、明確にバイアウト投資の対象となる企業も数多くあります。しかし、日本ではそういう企業自体が少ないでしょうから、話をスピーディーに進めるのは難しいですね。
【吉崎】 確かにおっしゃるとおりで、米国ほど案件はないので、全体的な案件数は多くありません。また、我々がファンドとして企業を買いにいくのと、大手の事業会社が企業を買収するのとでは、一般的には事業会社のほうが有利です。とくに半導体業界のように、歴史があって、しかもプレーヤーの数が限られている業界だと、我々がその業界に精通したファンドですといっても簡単には話がまとまりません。しかし、オーナー系企業、中小企業レベルですと、同サイズの企業の投資案件の話をすると、たいてい興味を持って聞いてもらえます。
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