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VC vision
前編 後編
第25回 日本発ベンチャーの可能性 後編 成長シナリオへの投資
カーライル・グループのベンチャー企業、中小企業への投資戦略は、
バイアウト投資とベンチャーキャピタルの
中間のポジションの立ち位置で投資を進めていくというものである。
同社では、それをグロース・キャピタルと名づけた
独特の投資スタイルを確立している。
グロース・キャピタルとは一体どんな投資法なのだろうか。
カーライル・ジャパン・エルエルシーの吉崎浩一郎氏に、
その具体的な投資手法についてお話をうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
主な投資先事例
投資先の経営にしっかり関与する

【森本】 カーライル・ジャパン・エルエルシーのグロース・キャピタル・チームが行っている投資展開の具体的な例をお聞かせいただけますか
【吉崎】 我々が投資した企業に、半導体の後工程のパッケージングをしている仲谷マイクロデバイスという九州の大分にある企業があります。売上げが約80億円あって、すでに相応の利益が出ています。この企業は、銀行からも手厚くサポートが出ていて、資金のニーズは十分間に合っている企業なのです。しかし、我々はここに15億円の投資をしました。なぜ、こういう企業で投資が実現できたかというと、半導体業界の中で、大手メーカーは前工程にシフトして、後工程を外注化する方向にあるのですね。その中で、仲谷マイクロデバイスがどのように成長する道筋があるか、例えばM&Aによる業界再編などを我々が提案していったわけです。そうしたプランに、仲谷マイクロデバイスが我々と共同で事業拡大を進めるメリットを判断して、投資できるようになったのです。投資後半年経ったいま、仲谷マイクロデバイスには具体的なM&Aによる事業拡大の話が出てきて、まさに、我々の支援が有効に機能する状況になってきているわけです。
【森本】 投資先の支援はどのようになさっていますか。
【吉崎】 我々自身が取締役として投資先の経営にしっかり関与することによって、経営者の意思決定に対してアドバイスできる環境、仕組みを作ることが最も重要だと思っています。また、M&Aが実施されるようになったときにどういう体制をとるかは、その時々の状況に応じてチームを作ります。我々カーライルのリソースを使ったほうがよければそうしますし、逆に外部の人員が必要であれば、一緒に探して雇うという形です。ケース・バイ・ケースで一番効率的な人材と体制を選んでいきます。
【森本】 ポストM&Aも重要ですね。
【吉崎】 M&A後、どうのように支援していくかについて 我々も数々の経験をしてきました。また、しかるべき経験のある人を投資先企業に紹介して対応しています。買収相手との統合をスムーズにするノウハウも、カーライル・グループのリソースが生きてくる部分だと思います。ただ、M&Aは安く買って高く売るという考えもありますが、値段の判断だけではなくて、我々が投資するメリットを投資先の経営者に納得をしてもらえるかが非常に大切です。この部分は教科書に書いていないところで非常に難しいのですが、その辺が我々の経験でうまく対応できるアピールポイントになります。
【森本】 米国ですと、バイアウト市場も確立していて、明確にバイアウト投資の対象となる企業も数多くあります。しかし、日本ではそういう企業自体が少ないでしょうから、話をスピーディーに進めるのは難しいですね。
【吉崎】 確かにおっしゃるとおりで、米国ほど案件はないので、全体的な案件数は多くありません。また、我々がファンドとして企業を買いにいくのと、大手の事業会社が企業を買収するのとでは、一般的には事業会社のほうが有利です。とくに半導体業界のように、歴史があって、しかもプレーヤーの数が限られている業界だと、我々がその業界に精通したファンドですといっても簡単には話がまとまりません。しかし、オーナー系企業、中小企業レベルですと、同サイズの企業の投資案件の話をすると、たいてい興味を持って聞いてもらえます。

成長未来に投資していくという考え方

【森本】 100億円かける案件も5億円かける案件も本質的にコスト構造は同じですから、カーライルで大きなファンドをグローバルに運用して莫大な収益を上げると、個々の案件の社会的認知が低くなってしまうことはないですか。
【吉崎】 皆さんも、そうおっしゃられるのですが、ポートフォリオとして各案件の投資を戦略的に行っているものですから、決してネガティブなものはないと思っています。投資家に対しては、よりたくさんのプロダクトを提供することを心がけていますから、バイアウトだけでなく、プロダクトの中にいろいろなスキームがあることを提示します。投資案件についても、単に大きい規模の投資案件を求めているわけではなく、5億円の案件が500億円になるかもしれないという案件にも狙いを置いています。確かに大きければ大きい案件ほど短期で投資が終わりますから、そこはファンドの中でのポートフォリオとしてバランスをとる形になると思います。
【森本】 バイアウト投資の分野でも、日本国内の競争が激しくなってきています。
【吉崎】 プレーヤーも増えてきました。こうなると、レバレッジをかけることによるリターンのみを狙うとなると、どこもリターンシミュレーションが同じになります。そこで、自然とバイアウト投資ではあっても、ビジネスの成長性を判断しないといけなくなってきています。実際バイアウト投資している案件の中には、どう考えてもレバレッジだけではリターンが取れそうにないのもありますから。したがって、長期投資でやっていこうという案件も増えてくるわけです。レバレッジだけでなくて成長未来に投資していくという考え方が投資家たちに認知されてくれば、これからもっとおもしろくなってくる分野です。時間はかかりそうですが。
【森本】 案件を探すときには、やはり大きい投資案件を求めているのですか。
【吉崎】 手前でいくら使うかも重要ですが、グロース・キャピタルの場合は、やはり、最終的にいくらになるかが一番重要なので、案件の見るポイントはそこを重視します。IRRのみではなくて、時間をかけてもマルチプル、投資倍率を狙いにいくのがコンセプトになります。またこの類の投資は、たとえ最初が数億円の投資であったとしても、あとで必ず追加投資が必要になります。それを考えると、結果として10億円、20億円になったりするわけです。入口を投資額で狭めてしまうと、投資機会が減っていってしまうこともあります。
【森本】 業種やエリアではどうですか。
【吉崎】 日本発の企業であることがまず一つですね。日本ならではのビジネスモデル、プロダクトというものがあってもいいと思っています。たとえば、カラオケなんかはそういうビジネスの一つです。日本だからこそ生まれた案件に投資したいという気でいます。メイド・イン・ジャパンだからこそ海外でも受け入れられるというビジネスですね。
【森本】 京都の焼き物の技術などは、可能性があるでしょうね。
【吉崎】 オーナー企業で、結構サイズがあって、光った技術があって、安定した業績を持つ企業は、京都には多いですね。しかも、視野を海外に向けている経営者も少なくないです。ただ、なかなか手堅い面もあって、我々外資系が付き合いをスタートさせるには、悩ましい点もあります。



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