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VC vision
前編 後編
第26回 インテグリティ、イノベーション、インキュベーション 前編 コミュニティという資産
1998年に設立された旧株式会社ネットエイジは、
渋谷の街をITビジネスの拠点として、
若いIT事業の起業家たちを支援する草分け的存在であった。
2007年6月、旧株式会社ネットエイジグループは、
グループの名称をngi group株式会社(現在)と改称し、新たな方向性を打ち出した。
ngi groupとして目指すものは何か。
ngi capital株式会社代表取締役社長の金子陽三氏に、
ベンチャーキャピタル事業を中心に、
同グループが掲げる新たな戦略について話をうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
主な投資先事例
起業経験者がベンチャー投資を行う

【森本】 そのチームにはどのような人々が集ったのですか。
【金子】 実は私自身は、2002年に、ベンチャー企業向けのインキュベーション・オフィスを提供する株式会社アップステアーズという会社を起業しています。このビジネスは、現在でも六本木、赤坂、本郷、渋谷の4拠点で100社くらいの起業家の方々にスペースを提供して展開中ですが、会社自体は2005年にネットエイジグループに売却して、私自身もネットエイジグループに参加するようになりました。ネットエイジでは、私が起業する以前にベンチャーキャピタルの経験もあったことから、ネットエイジキャピタルパートナーズの事業にも関わっています。グループ内には、私と同様に起業の経歴をもってグループに入ってきた者がいます。その起業経験者を集めて起業を支援するチームを作ったのが、チームビルディングのプロセスです。起業経験のある人間がベンチャー投資している点が、当社の特徴になります。
【森本】 金子さんはどのような経歴をお持ちなのですか。
【金子】 大学卒業後に、リーマン・ブラザーズ証券会社に就職しています。そこでは、投資銀行本部に配属されて金融機関の資金調達や事業法人のM&Aに従事していました。日系ベンチャーキャピタルのシンガポール現地法人の立ち上げに携わったり、また、シンガポールで投資活動や資金調達も行っていました。米国シリコンバレーに行っていた時期もありまして、ドレーパー・フィッシャー・ジャーベットソンというベンチャーキャピタルで、唯一の日本人投資担当者としてアジア太平洋地域の投資活動に従事していたこともあります。2002年に日本に帰ってきてからは、先ほどお話した株式会社アップステアーズという会社を設立してインキュベーション・オフィスのビジネスを始めました。そして、ネットエイジにお世話になり、現在のベンチャーキャピタル事業を進めています。
【森本】 ngi capitalの投資チームに集った起業家の方たちはどういう人たちなのでしょう。
【金子】 現在は人員も入れ替わっていますが、当時集まったメンバーは、私のほかに、日本で3番目にソーシャル・ネットワーキング・サービスを立ち上げた人物と、CFOをシンジケーションしたような会社を作った人物などです。ベンチャーキャピタル業務の経験者が少ないベンチャーキャピタルです。
【森本】 起業経験者がメンバーに集まったことで、どういうメリットがありましたか。
【金子】 現在、我々が設定している投資対象は、基本的にはアーリーステージのベンチャー企業です。とりあえず、事業計画があって、何人かのマネジメントスタッフがいるものの、まだ商品ができていない段階で、当然、まだ売上げが立っていない段階の企業が中心です。投資に至るまでには、そのベンチャー企業と一緒になって事業計画書を作らなければなりません。そして、投資をした後には、その事業計画書とズレが生じたときに、その原因を探って軌道修正を行ったり、計画の見直しをするなどして関与するわけです。一緒に事業計画書を作って事業を推進するには、いろいろなビジネスを実践してきた経験が有利になります。他のベンチャーキャピタルではなかなかできないことだと思います。メンバーがいろんなバックグランドを持っているので、その事業の信憑性の判断や実現性を考えるなど、いろいろなリソースを活用することが可能になります。

経営者と信頼関係を築くこと

【森本】 そこが、ngi capitalの強みになっているところですね。
【金子】 投資を成功させるためには、インターネットの技術や金融、投資技術が備わっていることが前提ですが、さらに、経営者と信頼関係を築くことが重要です。この信頼関係を築くうえで、我々の経験値は非常に役に立っていると思います。
【森本】 ベンチャー経営者と同じ目線でビジネスに取り組んでいけるということですね。
【金子】 そうです。それと、経営者は社員、株主に明かせない悩みを持つことが往々にしてあるわけですが、そういうことを前提としてわかっているのが我々なので、こういうことで苦しんでいるでしょ、という具合に、こちらから働きかけることができるので、問題が起きるのを未然に防ぐこともできます。
【森本】 出資者はどういう人たちなのですか。
【金子】 ベンチャーコミュニティファンド1号は、小池聡がやってきたビットバレーを背景にしていまして、我々はコミュニティが起業家を育てる、という考えを根底に持っています。ですから、このファンドにも、ベンチャーのコミュニティ形成に積極的に賛同する人に多く集まってきてほしいという思いがあります。出資者を募る際にも、そうした意識のある企業を回っています。1号ファンドの出資者には、自らもベンチャーだった株式会社サイバーエージェント、GMOインターネット株式会社や、投資活動をしているトランスコスモス株式会社、日本アジア投資株式会社、オリックス・キャピタル株式会社、それから、我々に賛同してくださった中小企業基盤整備機構などがあります。
【森本】 それ以降で出資者の変遷はありますか。
【金子】 今、実は6本のファンドを運用しているのですが、そのうちの一つが今申し上げているベンチャーコミュニティファンド1号でして、2号ファンドは昨年の12月に設立しています。2号ファンドでは、日本政策投資銀行、東京海上日動火災保険株式会社、ソネットエンタテイメント株式会社、オリックス・キャピタル株式会社、みずほキャピタル株式会社などがLPになっています。出資者の事情も変わってきていますから、2号ファンドには新たな投資家も入ってきています。ファンドサイズは1号ファンドに比べて2倍の規模で組成しています。
 それ以外のファンドは、いろいろな事業会社との二人組合です。全部で6本のファンドを総額で約65億円の運用をしています。
【森本】 6本のファンドはそれぞれコンセプトに違いはあるのですか。
【金子】 二人組合に関しては、投資対象にそれぞれ違いがあります。セカンダリーや、学生起業家ファンドなど、LPの興味と我々の強みを刷りあわせてファンド組成を行っています。ただ、我々の基幹ファンドは、ベンチャーコミュニティファンドの1号と2号です。これが我々の投資コンセプトに沿ったファンドになります。

後編 「リスクという名の可能性」(4月16日発行)へ続く。


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