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VC vision
前編 後編
第28回 ベンチャー共和国 前編 ビジネスアイデアの熟成
コアピープル・パートナーズの本間真彦氏は、
一人で立ち上げたファンドを通じて、
独自の投資観のもとにベンチャー投資を展開している。
そのスタイルは、本間氏自身が作り上げたビジネスアイデアを
ベースにして事業化を進めるというとてもユニークなものだ。
じっくりと時間をかけて起業家と
新しいビジネスモデルの確立に向けた議論を行い、
おたがい納得した上で、新規事業を立ち上げる。
その投資スタイルに込められた本間氏の投資哲学に迫った。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
主な投資先事例
創業時から事業にブレのないビジネスモデル

【森本】 出資された投資家はどのような方々ですか。
【本間】 IT系企業とその経営者の方々です。
【森本】 ファンドの組成には、どれくらいの期間がかかりましたか。
【本間】 7カ月くらいです。ファンドの規模は数億円規模で、それほど大きいものではありません。
【森本】 その規模は投資先企業の規模に応じたものということですね。
【本間】 そうですね。ステージが浅い企業が対象ですから、当初の資金はそれほど必要がありません。それに、いま、私は一人でやっていますから、ファンド自体もたくさんの案件を一気にビジネス化できる構造にはなっていません。だいたい1ショット2,000万円から3,000万円の資金で、ある程度まとまった株を所有するモデルになっています。
【森本】 すべてお一人でなさっているのですか。
【本間】 はい。でも、現在、投資している案件は4社ですから。
【森本】 ファンドの何%ぐらいを投資したのですか。
【本間】 まだ、2割から3割といったところです。
【森本】 最終的に何社くらいの投資を考えておられるのですか。
【本間】 一応、8社から9社をターゲットにしています。
【森本】 創業からの支援というのは、本間さんのビジネスアイデアを、一緒になってビジネスモデルの構築と事業化へと進めてくれる経営者を探すというスタイルなのですか。
【本間】 成功しているベンチャーのビジネスモデルは、結果として創業時からの事業にブレのないケースが多いのです。先ほどのMonotaRO社やベンチャーリパブリック社もそうです。日本のベンチャー企業を見ていて私が感じることは、日銭を稼ぎに走る傾向があることです。親しいクライアントから「こういうのを作ってほしい」といわれると、まじめなのかもしれませんが、本来のビジネスモデルから外れたものまでも応じてしまうことが、往々にあります。ですから、初めの企画の段階をしっかりとすることが重要になります。また、通常のベンチャー企業がベンチャーキャピタルからの投資を望むときは、ビジネスモデルや組織構造はすでにある程度固まっています。そこにベンチャーキャピタルがあれこれのアドバイスをしたとしても、企業成長に関われる面には制約も多くなりますし、経営者との関係構築も困難になりがちです。私の今のモデルの場合は、ゼロのステージのところから、ビジネスコンセプトを構築したり、優秀な人材を入れたりしながら、長い時間のすり合わせを経てベンチャー経営陣と意思を共有していくベンチャー支援をしています。考えた大まかなビジネスコンセプトをベースにして、起業家の事業への希望や方向性を聞きながら、これから立ち上げる事業のマーケット領域を定めたりビジネスモデルを作り上げていくようにしていきます。
【森本】 具体的な事例としてはどういう展開がありましたか。
【本間】 私がコアピープルで初めて事業を立ち上げた投資案件はイデアルリンクという会社なのですが、「Hot Docs」というサイトでYouTubeの文書版のようなインターネットサービスを提供する事業を行っています。パワーポイントやエクセルなどで作成された文書をYouTubeのようにユーザーから投稿できるシステムになっていて、その文書をわざわざダウンロードしなくてもサイトを開いた状態のままで読めるものです。イデアルリンクの経営陣は、東京工業大学卒業後にベンチャーを立ち上げた二人組で、当初は、教育関連のビジネスをやりたいということでした。そこで、私のほうから、Hot Docsの基になるビジネス案を提示して、彼らとそれを納得するまで議論した後、彼らがきちんとシステムを作り上げたことでできあがったものです。

2年間は最初のビジネスモデルに集中する

【森本】 本間さんのビジネスアイデアにはいくつものストックがあるのですか。
【本間】 基本的にはビジネスのモデルやパターンの認識については、キャピタリストのほうが長けている場合があります。いろいろな会社を見ている経験から、どういうものがいいのかということを的確に判断がしやすいと思います。現在、私なりの大まかなビジネスコンセプトを5枚くらいのシートにまとめているのですが、それをどういう風に具体的に実現するかが、一つのステップになります。そこで起業家に会っていくわけですが、そのビジネス分野の経営者に、私が持っているビジネスコンセプトを見せて、これを事業化したいという話をしていきます。一つの案件が具体的な投資に結びつくまでには、だいたい、数カ月くらいの時間をかけて週に1回くらいのペースで定期的に議論しながらプランを詰めます。事業化するまでには、こちらとしても、相手の人となりを見ないといけませんから、なぜこのビジネスがいいと思うのかとか、どういう風にビジネス展開したいと考えるのか、ということを細かく議論していくわけです。そこで、お互いに「やろう」となったところで、当初の2年間はこのビジネスに集中することを原則とした事業の立ち上げに取り組んでいきます。
【森本】 IT分野でのアンテナや引き出しはどういう形で増やしていったのですか。
【本間】 これは、ジャフコ時代に経験したものが生きています。私は、大学時代は体育会系でして、勉強の「ベ」の字もない生活をしていました。ところが、最初に配属されたところが海外投資事業部の部署で、皆さんがものすごく勉強をされるチームだったのですね。それで、先輩が取ってきた案件の投資会議で図るための資料をまとめさせられていました。米国でこういうビジネスモデルがある、というとそれを調べて資料を作るわけです。しかし、ITやソフトウェアについて知識がないので、英語で朝から晩まで調べないと資料が作れなくて、それをやっているうちに、だんだん面白くなっていろいろ知識も増えてきたのです。10年前には、いまITを語るようになるとは思いもしませんでしたね。
【森本】 Hot Docsというサイトでは営業活動も行ったのですか。
【本間】 外向けの営業としては、プレスを出したり、アライアンスの話を進めたりということはしていますが、お金を使ったマーケティング告知はまだしていません。
【森本】 Hot Docsの社長とはどのようにして知り合ったのですか。
【本間】 私の場合は、あまり「王道」というものがないのですが、今までの投資事例はすべて私の知り合いのベンチャー企業の社長にアイデアをぶつけるところから生まれてきています。これらには、ある程度成長しているベンチャー企業が多いですね。
【森本】 ベンチャーを目指す若者たちがベンチャーで成功した社長に会いにいくという例は多いと思いますが、そういう流れを読んでの動きということですね。
【本間】 そうです。おっしゃる通りの形ですね。あと、ベンチャー企業で働いている人にも、ベンチャー起業を目指している人が多いですからね。たとえば、社長が社内につなぎとめておきたい人材なのだけれど、その社員がやっぱり独立して出ていくというときに、それなら、という形で社長からその人を紹介されることもあります。

後編 「ビジネスモデルの精度を上げる」(6月18日発行)へ続く。


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