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VC vision
前編 後編
第28回 ベンチャー共和国 後編 ビジネスモデルの精度を上げる
本間氏のベンチャー投資は、国内でほとんど資金が流れていない
エンジェルマーケットの流動化、活性化を一つの目的にしている。
若い経営者がベンチャーキャピタルの支援を受けるまでの
「ゼロステージ」への投資が、本間氏が最も重視する活動領域だ。
後編では、インキュベーションに力を注ぐ本間氏の、
その投資活動に込められた狙いと今後の展開について話を聞いた。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
主な投資先事例
インターネットビジネスは集合値に強みがある

【森本】 ベンチャーキャピタルの投資へ移行させた時点をエグジットと捉えていいのですか。
【本間】 まずそこをゴールとして狙っていくということですね。創業の段階でいきなりIPOを狙うといっても、それは不確定な話に過ぎませんから。セカンドステージにいくためにはファーストステージでしっかり事業を作らなければいけないわけで、そこをきちんとやることが大切なのだと思います。先の話はその時のことだろうと思います。
【森本】 追加投資をする場合は、どのようなジャッジでなされますか。
【本間】 私自身が実践しているビジネスモデルが、ゼロからのスタートを基本にしていますが、そうすると、何を「1」とするのか、という問題が出てきます。もともと狙いのあるサービスやビジネスの案を持っていて、それを実現することがゴールになるのですが、基本的には、2年程度でビジネス化することをゴールの目安としています。2年後に、どうしてもそのビジネスの拡大に資金調達が必要であるのなら、黒字化してスケールのあるビジネスに育ったという状況を目標に、次のラウンドを作ろうと考えています。その意味では、追加投資は常に考えています。
【森本】 追加投資の事例はあるのですか。
【本間】 まだありません。
【森本】 現在温めていらっしゃるビジネスにはどのようなものがありますか。
【本間】 インターネットビジネスの領域は、比較的シンプルでして、専門家と集合値を対比して見たときに、集合値のほうに強みがある、という判断ができる場合にチャンスがあると思います。たとえば、旅行のガイドブックを作るのと旅行ガイドのサイトを作るのでは、情報量に決定的な差が出てきます。インターネットの世界では、旅行ガイドのサイトで多くの人の意見を集めて作れば、有名なレストランだけでなく、誰も知らないような小さなしゃれた店の情報まで、細かい情報を集めることができます。こうした理論的な説明ができるから、旅行ガイドはインターネットのサイトで作るべきだ、という結論が出てくるのだと思います。
【森本】 こうした例はすべてに当てはまりますか。
【本間】 厳密には外れるものもあるのですが、先ほどのHot Docsもほぼそういう考えで、みんなで作るというコンセプトである程度のパイが取れることが見えているので、そこをとにかく作ろうということになっていったものです。次に考えているのは、たとえば、英会話のデータベースです。英会話の市場はだいたい1,500億円くらいで、英語の教材を含めると5,000億円くらいの市場です。いま音声のインプットのコストがすごく下がってきていますから、多くの英語の音声ファイルは、データベース化することができるようになってきているように思います。それをダウンロードするとか英会話サービスの補助に使うようなことを考えているところです。考え方のフレームとしては、マクロの市場規模がある程度あって、既存のやり方よりもコストが低くて分量が取れる分野を狙うということになります。まだちょっとモデルはできていないのですが、医療検索エンジンなども手がけてみたい分野ですね。

精度を上げることとリスクを下げること

【森本】 しかし、できる分野はそう広くはなさそうな気もしますが。
【本間】 当然、取り組む業種は絞られてきます。
【森本】 このようにインターネットのビジネスがメインストリームとなってくると、旧来のプレーヤーがヘッジとして出資してくることも考えられますね。
【本間】 今のところそういう出資者はいませんが、考え方としては、すごく可能性が高いと思います。
【森本】 ただ、そうなるとストラテジックLPが多くなってしまうことになりかねない危険もあります。
【本間】 そうですね。ビジネスを拡大していくためには、ある業界に対してどういう投資の仕方をするのかを決めて、その切り口に沿ったパートナーになる出資者を募っていくことをやっていかないといけないと思います。
【森本】 本間さんのやり方で、投資機会はどれくらいの規模であるとお考えですか。
【本間】 ベンチャーの中でもきちんと業界や投資セクターを分類して、より専門的なところを狙うとか、同じ業界の中でも、新興上場企業を狙うとか、投資セクターや投資手法を分けて取り組めば、似たチームでスケールさせることはできると思います。ソフトウェアとインターネットだと、インキュベーションの案件だけで規模を追うのは、結構難しいのではないかと思います。もし、同じ領域だけでやるとすると、数十億円程度の規模で収まってしまうのではないでしょうか。追加投資でIPOまで持っていくような投資へと拡大できれば、100億円くらいの規模になっていくと思います。
【森本】 グローバル展開についてはどのようにお考えになっていますか。
【本間】 先ほどの英会話のビジネス展開は、アジアでも可能性があると思っているものです。ただ、まずは国内でしっかりやることを進めていきたいと思っています。国内のマーケットでも成長していないベンチャーがグローバル市場に出ていくことは、あまり考えられないですね。ただ、ソフトウェアとインターネットは、グローバルに進出する際のコストは低いので、やれると判断できるようなビジネスがあれば、可能性は高いと思います。しかし、同時展開というところまでは、まだ考えていません。
【森本】 将来的にはどういうビジョンを持たれていますか。
【本間】 いまの形は、自分の中で固まった型でもあるので、精度を上げることとリスクを下げることでしかありませんが、違う発展の仕方を考えるのであれば、同じIT分野での投資のビジネスモデルを作り変えていく方法か、違う分野でのベンチャー投資のフレームワークをインキュベーションのステージに適応するかのどちらかで模索したいと思います。中長期的にはそういう方向で考えています。


インタビューを終えて

本間氏のベンチャー投資は、起業家に自身のビジネスアイデアを持ち掛けて事業として実現することを一つの結果とする、その斬新なスタイルに特徴がある。しかし、何よりも注目すべきことは、本間氏のビジネスアイデアが、単なる思いつきではなく、米国での成功事例と詳細なマーケティングリサーチに裏付けられた理詰めのアイデアであるという点だ。本間氏は、成功の確信を持って起業家に新ビジネスを提案しているのだ。このスタイルは誰もが真似をできることではない。本間氏が取り組む新しいベンチャー投資のビジネスモデルは、日本のベンチャーキャピタル界に、新たな可能性をもたらしてくれるといえるのではないだろうか。(森本紀行)

次号第29話(2008年7月2日発行)は、日本ベンチャーキャピタル協会会長の鴇田和彦さんが登場いたします。


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