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VC vision
前編 後編
第29回 いでよ、アントレプレナー! 前編 ベンチャーを育成するインフラとして
日本で民間のベンチャーキャピタルの事業がスタートしたのは1972年。
日本のベンチャーキャピタル業界は、これまでにどのような成果を生み、
また、現在どのような課題を負っているのだろうか。
今回は、ベンチャーキャピタルの業界組織である
日本ベンチャーキャピタル協会の鴇田和彦会長に、
日本ベンチャーキャピタル協会が目指す目標と、
その活動内容についてうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)

支援機能の充実と間口の拡大を進めること

【森本】 事業の拡大に向けて、具体的にはどういう活動を計画されていますか。
【鴇田】 会員数の拡大については、勧誘活動ですね。業界の存在感を高めて、それによる利益実感が目に見える形になれば、当協会に加入してベンチャーキャピタル各社が切磋琢磨していこうという雰囲気もできてくると思います。ただ、そうはいっても、当協会は設立してまだ6年ですから、何十年もの歴史を持つ証券業界とは比べ物にならない草創期の段階です。そういう意味では、まだ協会に加入していない系統として、地銀系などのベンチャーキャピタルもあり、こうしたところへ積極的にアクションしていくことが必要です。地銀系は地域で一生懸命やられているベンチャーキャピタルも多いので、もっと連携を強めていきたいと思っています。
【森本】 中小企業基盤整備機構でも地域活性に力を入れています。
【鴇田】 当協会でも、地方、地域の活性化に役立っていかなければならないと思っています。また、事業別でいいますと、証券会社、銀行などの金融機関系のほかにも、総合商社系、メーカー系などそれぞれのジャンルを融合させる形の展開も重視していきたいと考えています。総合的なベンチャーキャピタルのほかにも、技術などの特化型やパートナーシップ系のベンチャーキャピタルなど、そういう独立系のベンチャーキャピタルにもどんどん加入していただいて交流を深めれば、ベンチャーキャピタル業界の総体の底上げにつながってくると思います。
【森本】 多様なベンチャーキャピタルが加入してくるために、どんなことをしようとしていますか。
【鴇田】 大手のベンチャーキャピタル以外からでも何でも相談していただけるような、支援機能の充実と間口の拡大を進めることです。また、ベンチャー企業に顧客や協力企業をマッチングするビジネス展開も協会としてできれば、やっていきたい事業です。そのためには、協会としては、自由でフランクな雰囲気作りが必要だと考えています。一言でいえば、協会に加入することでメリットを享受できる組織にするということです。我々が発信する情報をいつでも最大限に活用できる「ポータルサイト」のような存在になりたいと考えています。

志を一つにしている者の組織であること

【森本】 投資顧問協会を例にとりますと、同協会は自主規制団体になっています。理事も会員企業を半分以下にして半分以上を外部から入れないといけないことになっています。こうした、自主規制団体としての機能を強化すると、加入が促進されるという効果がありますよね。
【鴇田】 我々のあるべき姿は、志を一つにしている者の組織であることだと思っています。自主規制機能も課題ではありますが、そういうことよりも、ベンチャー企業の育成が本来の目的ですから、行政に縛られるのではなくて自由な発想でベンチャー投資できる環境を作ることのほうが重要だと思っています。投資家保護という問題もありますが、しかし、ベンチャーキャピタルのファンドはプロの投資家を中心としたファンドが多く、必ずしも不特定多数の人を対象にしているものでもありません。だから、当協会は、行政の縛りの中で加入しなさいというものとは違うと思っています。
【森本】 米国では、プライベートエクイティの分野でベンチャーキャピタルが占める割合は1割もありません。プライベートエクイティが成長するにつれてその割合がダウンし、バイアウト投資が大きく成長しているわけですが、その辺はどう考えていらっしゃいますか。
【鴇田】 個人的にはベンチャーキャピタルとバイアウトは分離すべきだと思います。日本においては、まだまだベンチャーキャピタルがきわめて重要な役割を担う位置づけにありますから、ベンチャーキャピタル業界がもっと発展していくのがベースだと思います。もちろん、バイアウトを否定するものではありませんから、それぞれの投資ステージでバランスの取れた投資ができる仕組みがないと、育つものも育たなくなるのではないでしょうか。
【森本】 ベンチャーキャピタルは、プライベートエクイティの側面と業を起こす側面がありますからね。そのうちの業を起こすことに力を入れるということですね。
【鴇田】 そうですね。
【森本】 日本のベンチャーキャピタルを活発にするための一番のポイントは何でしょう。
【鴇田】 やはり、アントレプレナーをいかに増やしていくかですね。たとえば、大学発ベンチャーでも課題は大きいものがありますが、真剣に後押しをしていかないとだめだと思います。我々も大学と個別に会合を持って情報交換を行っていますし、果実がすぐに取れなくても、本来のコンセプトからいえば、アーリーステージから企業を育てていくことをしないといけません。日本ではアントレプレナーがなかなか生まれてこない問題があります。米国では優秀な人材は、まずベンチャーにいきますが、日本は大手企業にいってしまうのですね。アントレプレナーを養成していける社会的な変革が必要だと思います。その一助となるべく、新しくベンチャー企業を立ち上げようというときに、当協会を訪ねてくれば一応のノウハウが分かるというフォロー体制の整備も進めたいところです。

後編 「新しいベンチャーの時代づくり」(7月16日発行)へ続く。


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