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VC vision
前編 後編
第29回 いでよ、アントレプレナー! 後編 新しいベンチャーの時代づくり
日本のベンチャーキャピタル全体の投資残高は
1兆円の規模にまで成長してきた。
しかし、米国のベンチャーキャピタルでは30兆円、
欧州では25兆円(プライベートエクイティ投資含む)に達している。
自由化とグローバル化が進む国際経済の中にあって、
日本のベンチャーキャピタルは、
いかにして国際競争に打ち勝つ力量を身につけなければならないのだろうか。
日本ベンチャーキャピタル協会会長の鴇田和彦氏に、
日本のベンチャーキャピタルの
いっそうの活性化に向けた意気込みを語ってもらった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)

企業を育てて日本の新しい産業を作っていく

【森本】 コーポレートベンチャリングについてはどのようにお考えになっていらっしゃいますか。
【鴇田】 コーポレートベンチャリングに関しては、銀行系、証券系、商社系のベンチャーキャピタルでも、事業化の実現性が高くなっています。実際、大手企業でカーブアウトさせて新規事業を立ち上げる事例も増えていますし、また、産業構造の変革に寄与するという意味で、これまでのベンチャー企業の持つ知財を大手企業の事業と結びつけるコーディネイト機能も期待されてくると思います。ベンチャーキャピタルが投資している企業を、大手企業と組ませたりして再生させていく事業も重要になってくると思います。そういう意味で、ベンチャーキャピタル業界がやるべき課題は多いのです。また、プライベートエクイティの分野でどの投資が儲かるか、というパフォーマンス狙いも大切ですが、企業を育てて日本の新しい産業を作っていくという気概を捨ててはいけないと思います。ベンチャーキャピタルは単なる運用業ではないと思います。ベンチャー企業を育成するのが、本来あるべきベンチャーキャピタルの姿じゃないでしょうか。それから、R&Dなどでも国からの資金を呼び込んでいくことも必要です。たとえば、バイオなどは日本では壊滅的な状況ですが、このように市場が低下していたとしても国がベンチャーを支える機能も必要だと思います。
【森本】 おっしゃるとおりだと思います。
【鴇田】 バイオ投資に関してはまだ際だった成果が出てきていない状況ですが、それでも、いままでベンチャーキャピタルがバイオに投資した資金が1,500億円くらいあります。その中には有効なシーズもあるはずです。やはり、製薬会社、厚生労働省等を交えてバイオベンチャーを支援するシステムを作っていかないといけません。
【森本】 投資先の企業価値向上のためには、アジアとの交流も重要ではないでしょうか。
【鴇田】 はい。もうアジア各国はお互いに「表敬」の段階にはありません。韓国でも日本とおかれた状況は同じで、欧米の目が中国、インドに向いてしまって完全に出遅れてしまっています。問題意識は日本と完全に一緒です。だから、お互いに投資し合う関係を構築していくことが必要です。韓国のソフト事業には最先端のものもありますし、逆に韓国が日本の技術に投資してもいいわけです。日本の製造業はこれまで大手企業を中心としてやってきて、ベンチャー企業がないに等しかったため、若い企業が育っていないのですが、もう、そういう時代ではないだろうと思います。今後は、その構造も大きく変わっていくだろうと思います。その意味でも、アジア地域からの投資を増やす交流は重要なポイントになります。

事業を作る人を後押しする仕事

【森本】 日本のベンチャーキャピタルの社会的地位が低いのは、日本の戦後60年の経済パフォーマンスからすると違和感のある現象です。それは、米国のベンチャーキャピタルに代わるシステムが日本にあったからで、それは、鴇田さんがおっしゃるように、大手企業であったり、あるいは行政であったのだと思います。しかし、そのモデルは10年以上の間に行き詰ってきているのですね。そうすると、その機能をこれまでの大手企業から外部化しなくてはいけないわけです。これまで30年の歴史のあるベンチャーキャピタルにその役割を社会的にも担わせていくべきではないかと思うのです。
【鴇田】 まったくそのとおりです。実際、これまで日本はメインバンクを中心とした資本主義だったわけですが、ここ15年ほどの間に、銀行系のベンチャーキャピタルをみても、ベンチャーキャピタル業務の人気が圧倒的に高いのですね。出向でベンチャーキャピタルにくると元の業務に戻りたがらない人がほとんどです。事業を作る人を後押しする仕事は魅力があるし、優秀な人材もインベストメントバンキングに移りつつあります。大手企業も、これまで米国的な意味でのベンチャーを担う要素があったのですが、これからは必ずしもその機能を果たせなくなってきています。日本の産業界の背景が変わりつつあると思います。そういった意味で、これまでの枠組みから外れてきた資金と技術が融合すれば、新しいベンチャーの時代が始まっていくと思います。
【森本】 地方ですと融資の枠組みもなくなっていっていますからね。
【鴇田】 企業の資金調達もインベストメントバンクに移っていかざるを得ないですね。
【森本】 地銀でも地域金融における地域ベンチャーキャピタルとはどうあるべきかという議論が行われていますから、地銀がベンチャーキャピタル分野で戦略的に動いていくことも期待できます。
【鴇田】 おっしゃるとおりで、日本の金融機関のレベルはグローバルの中で比較しても製造業に比べて圧倒的に低いわけです。金融と事業会社が調和して発展しない限り世界の一等国になれません。そういう状況から脱却するには、ベンチャーキャピタルがもっと脚光を浴びていかないといけないですね。「失われた15年」は、構造的な背景があるわけです。日本のベンチャーもそれなりの役割を果たしてきたとはいえ、むしろ、これからが期待されるべきものであって、そこが、このベンチャーキャピタル業務の重要性を感じるところです。



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