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VC vision
前編 後編
第31回 グローバルなベンチャーの架け橋となる 後編 人心を読んだ投資
グローブスパン・キャピタル・パートナーズは、
ボストン、パロアルト、東京に事務所を構え、
グローバルな投資活動を実践するベンチャーキャピタルだ。
その特徴は、キャピタリスト個人の能力に依拠して
ベンチャーの投資、支援を行う米国スタイルではなく、
チームによる総合力で組織的な投資活動を行う日本的な手法を取り入れていることだ。
代表取締役社長のアンディ・P・ゴールドファーブ氏に、
その特徴的な投資スタイルについての考えをうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先事例

徹底的に人間性について問いただしていく

【森本】 投資先を決定する際に最も注視しているポイントは何ですか。
【アンディ】 まず、第一に重要なのは、経営者の質です。経営者の資質に問題があると、成功する確率は非常に低くなります。そして、その事業が展開する市場の大きさを検討します。たとえいくら立派な船でも池の中を航海していては、遠くまで行くことはできません。しかし、大きな海原への航海ならば、そこには限りなく大きな可能性が満ち溢れています。いくらすばらしいビジネスモデルでも、市場の拡大の余地が小さければ、大きく成長することはできません。市場が大きく発展すれば、企業成長の可能性も大きくなります。
【森本】 アンディさんのおっしゃる経営者の資質とは、具体的に何を指していますか。
【アンディ】 まずは、経験があることです。しかし、ベンチャーの場合、経験のある経営者はほとんどいません。そこで、自分が何を知らないかをわかっていないといけません。わかっていないのにわかっているつもりになっている経営者が最も悪いパターンだといえます。そういう経営者は、非常にリスクのある経営者だといっていいと思います。自分が何をわかっていないかを認識できていれば、その分野では自ら的確なアドバイスを求めることになるし、それは、未然にリスクを防ぐことに役立ちます。それができるかできないかが、経営者の資質として、非常に大事なことだと思います。このことは、起業して企業を作れば、必ず経営者が直面する問題です。自分の知識、経験、能力では及ばない問題に、どう対処して、解決していくかというとき、経営者が自分のわかっていないことを知っているということは、非常に重要なポイントになるのです。
【森本】 その経営者の資質を見極めるためには何を注意して見ますか。
【アンディ】 心です。私は、経営者と面談するときには、その人間性に関する質問しかしません。技術やビジネスモデルについての質問は他のパートナーたちに任せて、徹底的に人間性について問いただしていきます。そして、相手の顔、話し方、身振りなどをじっと見て観察します。これが、私の一つのやり方です。経営者も完璧な人間であることはありませんから、であるからこそ自分の弱点を補える人材を周辺に集められるかどうか、そういう魅力のある人間かどうか、ここが経営者をみる際の大きなポイントなのです。
【森本】 市場の拡大の可能性を見極める際のポイントは何ですか。
【アンディ】 それは非常に難しい問題です。たとえば、一つの写真にきれいで立派な建物が写っているとします。建物だけをみると、非常にいい物件です。しかし、ズームアウトして周辺の環境が見えてきた時、その建物は砂漠の真ん中に建っているかもしれません。そうなると、この物件の価値はゼロです。狭い視野でみるといい物件も、広い視野からみるとまったく違ったものになることもあるわけです。ですから、ある技術、また、ある消費者ニーズがあっても、一つの視点からだけみていてはいけないということです。

nice to haveではなくmust have

【森本】 投資を考える先のマーケットサイズについては、なんらかの指標をお持ちですか。
【アンディ】 大体1,000億円くらいの規模は必要だと考えています。
【森本】 投資にあたっては、どのような技術に狙いを定めていますか。
【アンディ】 一言でいえば、ソリューションとなる技術です。あれば便利というレベルではなくて、その技術によって多くの人のニーズを解決できるクオリティがあることを、我々は求めています。大事なことは、多くの人が必ず必要とする技術であることです。「nice to have」ではなくて、「must have」 である技術であれば、市場が大きく伸びる可能性も大きいといえると思います。ただ、それをピンポイントでみつけることは難しい問題でもあります。
【森本】 これからの短期、中長期での将来的な展望はについてお聞かせください。
【アンディ】 短期的には、現在運用している三つのファンドで高いリターンを実現することです。そのためには、我々は有望なベンチャー企業を必要としていますし、逆にベンチャーの経営者からは、常にグローブスパンの支援の中身について問われているともいえます。我々の武器は、他のベンチャーキャピタルにはない、日本を中心としたアジアでのビジネス開発能力です。業界内外に張り巡らされているコネクションと、有能なマネジメント人材を紹介できる体制は、ベンチャーの経営者に大きなメリットを提供できるものと考えています。また、中長期的には、日本を中心に行ってきたアジア投資を、今後は韓国、中国、東アジア全体へと拡大していくことです。そして、5号ファンドから新機軸として導入したクリーンテクノロジー分野への投資を、従来の太陽電池、エタノールにとどまらず、さらに投資技術領域を拡大していく計画です。こうした活動を一層充実させ、真にグローバルなベンチャーキャピタルに成長することを目指しています。


インタビューを終えて

米国のベンチャーキャピタルが、日本市場で投資活動をしようとしても、なかなか成功できずにいる傾向がある。それは、米国と日本の産業土壌、さらには社会的な構造が、根本的にも質的にも大きく異なっているためだ。米国のベンチャーキャピタルのスタイルをそのまま日本に持ち込んでも、結局うまく機能しないのである。そんな中にあって、米国資本のベンチャーキャピタルであるグローブスパン・キャピタル・パートナーズが、米国現地の投資活動と、日本市場での投資活動を上手に両立させていることは、興味深いことといえる。そこには、社長のアンディ・P・ゴールドファーブ氏が、熱烈な親日家であることに理由がありそうだ。日本の企業文化である根回しを駆使するコンセンサス作りを取り入れ、組織的なベンチャー投資を行うスタイルは、外資系の金融企業としては、実に珍しい姿といっていいだろう。グローブスパン・キャピタル・パートナーズの投資スタイルに、外資系ベンチャーキャピタルが、日本市場で大きな成功をおさめるためのヒントを見ることができるのではないだろうか。(森本紀行)

次号第32話(2008年10月1日発行)は、大和SMBCキャピタル執行役員、投資第一本部投資第一部長の横山英世さんが登場いたします。


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