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VC vision
前編 後編
第33回 安田企業投資株式会社 後編 事業の本質的な価値を高める
キャピタリストが自らの情報網でファインディングからイグジットまでを担当し、
キャピタリストが投資先企業の成長に深くかかわるスタイルを特徴としている。
同社が保有する組織的なネットワークは、
こうしたキャピタリストの投資活動やハンズオン活動を
バックアップする体制として構築されている。
後編では、キャピタリストたちがそれぞれ高いモチベーションを備えた投資活動を実践する
同社独自のベンチャーキャピタル観を語ってもらった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先事例

ネットワークを使った情報の提供

【森本】 米国の拠点を使ったネットワークは、当初からのプランなのですか。
【鈴木】 考え方としては、当初からありましたが、ネットワークとして実現できているのは、ここ2、3年のことです。
【糸川】 当社がネットワークの中で上場企業とのお付き合いの拡大を意識的に進めてきているのは、ベンチャービジネスを育てても上場企業が買ってくれないと売上げに結びつけることができないからです。ベンチャー同士での取引ではビジネスは大きく成長していかないですから。ですから、上場企業の側でどういう事業やビジネスを求めているかの情報も業務推進部で蓄積させています。
【森本】 今のお話は、キャピタリストの知見を高めるという側面でのものと思いますが、具体的なハンズオンでの強みという点ではどうでしょう。
【鈴木】 ハンズオンというと、非常にかっこいいのですが、具体的に何ができるのかというと、まずは、事業を成長させるうえで資金を供給できることですね。製品を開発することはできませんし、営業に行くこともできません。そうしてみると、ネットワークを使ってうまくヒットする情報を提供してあげることが最大の付加価値なのではないかと思うのです。もちろんIPOに向けて形式的な要件を整えていくためのアドバイスは、我々はそこの専門家ですから、行っていきますが、事業の本質的な価値を高めるという意味では、我々が実働する部分ではないと思います。それが実態だと思います。ベンチャーの中に入ってCFOをやっています、というとかっこいいのですが、そうしたら、数多くの投資はできないですよね。
【森本】 実際に役員として入るケースはないのですか。
【鈴木】 それはあります。部長、シニアキャピタリストで一人2、3社くらい持っていると思います。私自身も3社の社外取締役をしています。ただ、会社法の改正で取締役の責任が厳しくなっていますので、オブザーバーで済ませられるのなら、オブザーバーで済ませたいという考えはあります。オブザーバーとしての意見でも、経営者が十分検討して実行してくれるのなら、無理に取締役になって1票の投票権を持たなくても構わないですから。会社の状況に応じて判断していきたいと思っています。
【森本】 現在の投資先の数は何社ありますか。
【糸川】 360社くらいです。
【森本】 そうすると、キャピタリスト一人約10数社を担当しているということですね。
【糸川】 個人差はありますが、平均するとそうですね。

IPO以外のイグジットでもリターンを確保

【森本】 これまで投資した先のうちIPOは何社ありますか。
【糸川】 IPOは145社です。
【森本】 イグジットに向けてはどういう考えで進めていますか。
【鈴木】 昨今のIPOの状況を考えると、IPOのみのイグジットを想定してファンド運営をしていたらうまく回らないことは明白です。これからは事業売却やM&Aも想定した投資をしていく考えでいます。今年の投資方針は、新しい投資に関しては、1億円以上、または、シェア10%以上を取る投資をしていこうという目標にしています。我々は毎年平均80社くらいに総額で50億円、1社平均で6,000万円くらいの投資をしてきましたが、それではハンズオンをするには多すぎてやりきれない面があります。優良な企業に絞って大きく投資をしていくことを方針化しました。昨今の状況を踏まえてじっくり選んで、シェアを大きく取ることでイグジットの際の発言権を増していく狙いです。IPO以外のイグジットのときに、発言力を大きくしておけば、実現もしやすくなりますから。
【森本】 種類株の活用も視野に入れていますか。
【鈴木】 はい。我々は米国での投資をしていますから、米国のファイナンスの形態はかなり熟知しています。日本の会社法が改正になって種類株が使えるようになったときに、どのようなことができるか、かなり研究もしました。そういうものを利用してIPO以外のイグジットのときでもリターンが確保できるような仕組みを作って投資することを行っています。当社がリードをとれば、可能な限り種類株を活用して、発言権を確保しながら投資しようと考えています。あと、もう一つ、業務推進部はいろいろな業務を担当しているのですが、M&A業務も一部行っています。そこの情報を活用して投資先に、M&Aの機会を設けていくこともしていきたいと思います。
【森本】 M&Aが実現した案件はあるのですか。
【鈴木】 ほとんど海外の事例ですが、数はまだ10件程度です。海外の場合は我々がリードをとっているわけではないので、結果としてM&Aになったというものにすぎません。国内では、積極的に動いて実現したケースは、まだ2件です。普通株で投資してイグジットをする際にM&Aを仕掛けるのは、結構難しいですね。社長が合意してくれないと話が前に進みませんから。今後は、M&Aを意識して種類株を活用していく計画ですから、M&Aの件数は増えていくものと考えています。


インタビューを終えて

今回の安田企業投資への取材を通して、日本のベンチャーキャピタルの黎明期を代表するエヌイーディーが培ってきた蓄積が、見事に今日まで継承されていることを実感した。大手金融機関を背景に持つ系列ベンチャーキャピタルは、親会社の事業に大きく影響を受けるものだが、安田企業投資は、まったく独自の投資活動を実践し、キャピタリストたちの関心も純粋に新規事業の成長発展を目的にしたベンチャー投資に注がれている。将来、日本を代表する世界的なベンチャー企業が生まれるとしたら、こうしたキャピタリストの独自で自由な行動が保証されたベンチャーキャピタルから生まれてくるのではないか。その思いを強く持った。(森本紀行)

次号第34話(2008年12月3日発行)は、新規事業投資株式会社の酒巻弘さんが登場いたします。


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