今、米国で注目されているセールスフォース・ドットコムという会社があるのですが、その経営をしているマーク・ベニオフとは、実はオラクルの新規採用者に向けた説明会で出会った仲です。オラクルのソフトの使い方や、接待費の処理の仕方といったことを説明する場所だったのですが、たまたまマークが僕の隣に座っていたのです。彼の社員番号は1番違いの1963番でした。あとでわかったことですが、お互いに相手を「変わり者だな」と思っていました。
マークの一番印象に残っているところは、若い頃から彼は「自分は将来、起業するんだ」と心に決めて行動していたことです。彼は成績優秀で、カリフォルニアならUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に行けるだけの学力があったにもかかわらず、USC(南カリフォルニア大学)を選んだのです。米国でもUCLAのほうが有名ですし、レベルも高かったのに、なぜUSCを選んだのかと尋ねたところ、1986年当時、起業経営を専攻にできる大学はUSCしかなかったからだと答えたことが、強く印象に残っています。
今でこそ「米国人は大学を卒業すると、既存の会社に就職するよりは自らの起業を選ぶ」というイメージが定着していますが、当時はそんなことはまったくありませんでした。僕の周囲でもコンピュータ業界を選ぶならばIBMやヒューレットパッカードへ行きたいという人間が大半でしたから。コンピュータサイエンスを学ぶ優秀な研究者も「最もおもしろい研究ができるのはIBMだ」と言っているのが普通でしたから。ところがマークは「起業するんだ」と、大学までそのために決めていたのです。変わり者ですよね。
|