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Vol.011 セコム株式会社 取締役最高顧問 飯田亮第1話 事業家の血肉
コラム(1) パーソナル・データ(1)
割に合わない仕事
 父の会社だからといって私が自由にできたかといえば、そうはいきませんでした。男ばかりの5人兄弟でしたが、兄三人も、岡永で働いていました。末弟の私は、先輩である兄たちに付いて仕事はしっかり覚え込んでいくという具合でした。
  さて、仕事が終わってから家に帰って父親の前で食事となるわけです。そして、晩酌のおつきあいをするのですが、そのうち父の説教が始まります。「お前の仕事はなってない」と。それが毎日続きました。酒の運搬の仕事を2年ほどやった頃に、ようやく父から「そろそろ営業の仕事をやってみろ」といわれて、外回りに出るようになりました。
  営業の仕事を覚えてゆくにつれてわかってきたことは、「酒問屋とは割に合わない仕事だな」ということでした。取引先というのは小売店や二次問屋でしたが、納めても手形ばかりで、その場でキャッシュで支払われるということはありませんでした。お互いの間で決まっている取引上のルール、商習慣というものがあり、お酒を売って30日後に代金を支払ってもらえるのが普通でした。

営業から学ぶこと
 問屋というのは酒造メーカーから運んできた荷物を積み下ろしたり、小売店まで運ぶという手間をかけているわけです。しかも、その支払いについては30日後になる。つまり小売店などに一時的にお金を貸しているようなものです。
  また商売の折衝のために気も使うわけです。営業といってはお得意先と酒を飲みながら「この酒を買ってください」と言わなければいけない。自分の店から酒を買ってくれる得意先には「ありがとうございます」と言って頭を下げる。銀行に対してもそうです。当時の企業と銀行の関係というのは、今とはまったく違います。お金を借りて金利をちゃんと払っているのに頭を下げなければいけなかった。
  取引先にも、銀行にも頭を下げてばかりいる。それでいて利益はわずかしかありませんでしたから。こんなことなら、得意先に金を貸したほうが、その金利で儲かるじゃないかと思ったほどです。しかし、今から考えると、この時に考えたことや父から聞いた話というものすべてが今のセコムに生きているのですから。

(1月17日更新 第2話「一からデザインする」へつづく)



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