私の父は曲がったことが大嫌いな人間でした。タバコは吸いましたが、キセルが嫌いというぐらい徹底していました。キセルは先が曲がっていますからね。そんな父から子供の頃、厳しく躾けられたことで思い出すのが、「しゃがむな」ということでした。
小学生の頃、井の頭公園に家族で遊びに行った時のことです。帰り道、私は遊び疲れて吉祥寺駅のホームで、ついしゃがみ込んでしまったのです。すると父が烈火のごく怒り「しゃがむな」と怒鳴りつけたのです。私はびっくりして立ち上がりました。そのあと、父は私の耳元で小声で言いました。「周りでしゃがんでいる人たちの顔を見なさい。みな良い顔はしていないだろう。お前にはあんなふうになってもらいたくないのだ」と。確かにしゃがみ込んでいる人たちの顔は、生き生きとはしていませんでした。父にそう教えられて以来、私はどんなに疲れてへこたれても、しゃがまない、またしゃがみ込むような精神状態にはならないと心に決めたのです。
セコムの教育というのは、この父から教えられたことが基本になっていると言っていいでしょう。今、セコムという会社は天に恥じることがない会社に育ちました。創業時には反対をした亡き父も、今は喜んでくれているに違いありません。 |