そんなところで「証券取引法第何条によれば」などと言っていてもしょうがない。実際の商売には間に合わないということもありました。それで"現場を見たい"と痛切に感じるようになったのです。それは私の家が商売を手伝っていたとことと関係があると思います。実際の現場ではさまざまなことが起こるものだということを実感していましたから。
また私が弁護士になった70年代の後半は、日本の金融関係の市場が規制緩和で沸いていた頃です。お金が日本にどんどん入ってきていました。しかしそうした分野で目立った活躍をしている弁護士は、ほとんど海外の人たちで、日本人はほとんどいませんでした。
日本企業の取引なのに、実際に仕切っているのは米国の証券会社であったり、ロンドンから来る弁護士だったりするわけです。それを見て、取引の大本があるのは海外なのだなと実感したわけです。そういうところを自分の目で見たい。本場の法律や制度を理解したいと思うようになりました。弁護士になってから5年目ぐらいたったころでした。
本来ならその事務所に勤め続けて、キャリアを積んで上へ上がっていけばよかったのでしょうが、心の中では、ニューヨークやロンドンに行ってみたい、さらに違った経験を積んでみたいという思いが募っていったのです。
(2月14日更新 第2話「創意工夫の輪」へつづく)
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