起業家・ベンチャーキャピタル・投資家を繋ぐコミュニティ・マガジン

Front Interview
第1話 第2話
第3話 第4話
Vol.012 三井法律事務所 弁護士 代表パートナー 三井拓秀第4話 リスク&チャレンジ
コラム(4) パーソナル・データ(4)
弁護士というリスク
 弁護士の仕事というものは、すべての答えが六法全書に書かれていると思っている人がいます。しかし、実はそうではありません。六法全書に通暁していて、公になっている判例とか解釈は知っている、しかし、そうした知識のある人でさえ答えが見つけられないようなケースに答えるのが、我々のような企業法務の弁護士の仕事です。
  とくに新しいビジネスの相談に来るお客様というのは、人のやっていないこと、新しいことをやってお金を稼ごうとしています。そうした方の質問に対しては徹底的に調べてベストの回答を返します。一番あぶなげのないのは「そんなことをしても知りませんよ」という答えなのでしょうが、そんなことをしていたのではお客様に来ていただけません。
  また後で"違法だ"と言われても大変です。必要なら役所に相談したり、これまでの判例を調べたりもしますが、最後は自分自身で"ここまでは大丈夫だろう"という判断をします。そういう意味では鼻のきかせ方が必要だということになるし、ある意味リスクを負って判断しているということになります。

社会への目配り
 法律というのは基本的に人の営みですから、あるとき突然新しい原則が見つかるということはありません。基本的には、今まであったことの組み合わせです。金融関係でいえば、新しい商品というのはたくさん出てきています。しかしそうした商品も、元々のモデルをひねって新しい商品にしていくのです。本当にひねることができるかどうかは、今ある法律や規制に関係してくるわけです。「そこまでひねってはいけない」というところに引っかかるかどうか、それが問題になってきますし、弁護士の判断が求められます。
  またそうした判断の元になる判例や先例というのがあり、それを組み合わせたり、積み重ねることで新しい判断ができあがる、判断を広げていくということもあります。それを可能にしていくための能力を常に磨いていなければなりません。それこそがプロフェッショナルとしての証でもあるのです。
  もちろんこうした判断も結局は人がやっていることですから、それが世間に受け入れられるかどうか、裁判所に「いいよ」といわれるかどうかは、結局のところつかみきれないものです。だからこそ、世の中の価値観といったものにも常に目配りをしておく必要があります。

グローバル化と契約社会
 これまでの日本社会は、いわゆる村社会だったと思います。日本ではすべてを法律に書いて規定するのではなく、法律には書いていないが人々に共通するルール、暗黙のルールというものがあって、それが法律の代わりになってきていました。
  しかし、世界の国々は、それぞれ民族も違う、生い立ちも違う、それぞれ独自に規範のようなものを持っています。グローバル化していくということは、そうした人たちとの接点がどんどん増えていくということです。そうなると村社会ではすまなくなっていきます。
  たとえば外資系の金融機関などがやってきて、法律に書かれていなければ暗黙のルールは平気で破ってしまう。お役所が知らない間にめいっぱい儲けてサッと逃げていくことが数多くありました。また契約書を見ても外国は徹底した契約社会ですから、しっかりと書き込みます。日本で作る契約書が3〜4ページだとすると、同じ契約内容でもヨーロッパなら15〜20ページ、米国なら30〜40ページにはなります。グローバルな社会では、こうした現実を受け入れることが必要ですし、これからは欧米のような訴訟社会に近づいていくのかもしれません。



HC Asset Management Co.,Ltd