帝人に入社してすぐ、第2次オイルショックが起こり、帝人も大きな影響を受けました。会議で上司が「帝人も銀行管理になるかもしれない」と発言したこともありました。人員削減が計画され社員全員に退職金が示されました。私にも退職金が示され、入社して程なくのことでしたからたいへん驚きました。「大企業でも潰れるかもしれないのだ」と思い知らされましたし、再建を主導する銀行の存在を知り「銀行とはそんなに強いものなのか」という強い印象を持ちました。
入社したばかりで詳しいことはわかりませんでしたが、おそらく課ごとに削減人数の割り当てがあったのでしょう。わずかな退職金で辞めていった人を数多く見ました。確かにその後会社の業績は良くなりましたが、しかし経営者が胸を張って「業績を良くしました」とは絶対に言えるものではありません。私は「経営者は働いている従業員を幸せにして初めて経営者と言えるんじゃないか」と思うようになりました。
それでも当時の私は、定年まで帝人に勤務するつもりでした。しかし29歳の時、尊敬していた4歳年上の方が亡くなったのです。組織内で精神的な重圧があったのかもしれません。私はそれをきっかけに会社というものを見つめ直しました。帝人は本当に良い会社ですが、大企業というものは、実績を上げたからといって偉くなったり社長になれるというものではありません。そうしたものが見えてきて、自分は大きな組織には向いていないと思うようになりました。「帝人にいれば50歳過ぎ頃までは安定している。しかし50歳を過ぎて昇進しなくなったとき、きっと後悔するんだろうな」と考え始めたのです。
(6月13日更新 第2話「新しい世界へ」へつづく)
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