ある住宅メーカーから「東海道新幹線の沿線に100枚の野立て看板を立ててブランドイメージを高めたい。企画を考えて欲しい」という依頼がありました。競合相手はそのメーカー関連の広告代理店でしたが、私は「必ず仕事を獲る」と意気込んで臨みました。最初に私たちがしたことは、実際に新幹線に乗り込んで沿線にどのような野立て看板があるのかを自分たちの目で見てみることでした。さらには、新幹線乗客がいつ、どのようなときに看板を見ているのかも調べました。
調査の結果わかったことは、一流と呼ばれる企業はほとんど野立て看板を出していないということでした。また、のんびり窓の外を見ている乗客もほとんど居らず、唯一窓外に目をやるのは車両が駅に停まっているときだけ、ということが分かりました。そこで、「品質を重視する住宅メーカーに野立て看板は合わない」、むしろ「ブランド価値を毀損する」ものであるとし、仮に交通広告を出稿するのであれば「主要駅のプラットフォームに企業価値を高めるブランド広告を打つべきだ」という提案をしたのです。プレゼンを受けた住宅メーカーの担当者は、「それでは駅に出す広告看板の提案を2社から出していただきましょう」ということになったのです。つまりプレゼンに勝った競合相手とふたたびコンペということになったわけです
さすがに、そこまでいくと諦めると思っていたのでしょう。しかし、「よし、それなら駅頭広告の最適解を提案しよう」と決意し、主要駅において出稿を見込める広告スペース周辺での、人の歩く速さ、そのスピードで見える視認性などについて科学的な検証を行い、どこに、どのような看板を出せば人の目により長く、より効果的にふれられているのかを明らかにしました。その検証結果をベースにしたクリエイティブ案を提案したのです。そして、とうとう仕事を獲得する事ができました。
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