大学6年の時に銀座8丁目のクラブでバーテンのアルバイトをしていました。会社の社長や広告代理店の営業マンなどが通ってくるごく普通のこぢんまりとしたお店でした。ちょうどその頃、現代美術のギャラリーとして有名だった西村画廊に勤めていた大学の先輩から「画廊でバイトをしないか」と声をかけられたのです。当時、西村画廊は銀座にありましたので、夕方までは西村画廊で働いて、その後に銀座のお店に出るようになりました。自分ではそうは思わなかったのですが、
バーテンという仕事が板に付いていたのでしょうか、クラブのママから「卒業したらうちでプロのバーテンにならない?」と誘われたことがありました。
そうこうしているうちに就職活動をしなければならない時期になりました。しかし、普通の会社に勤めたり公務員になる自分をイメージすることができませんでした。でも、やはり就職しなければいけないだろうと思い、キティフィルムやソニーといった映画に関わりのある会社をいくつか受けました。しかしことごとく失敗。そこでアルバイトをしていた西村画廊にそのままお世話になることにしたのです。
西村画廊では、働くというより勉強に近いものがありました。仕事といってもどこかに積極的に営業に行くようなこともなく、画廊にお見えになるお客様にお茶をいれたり、お話ししたりするという仕事。お客様はサラリーマンの方であっても、美術のコレクションをずっとしている人。見識が凄く深いのです。それを聞くのがおもしろかった。あと、西村画廊は舟越桂さんやホックニーさん、中西夏之さんといったそうそうたる作家を取り扱っていましたので、その作家の資料や画集がたくさんありましたから、時間があるといつもその資料や画集を眺めていました。画廊では毎月個展が開催されていて、その都度パーティーが開かれるので、そこで横尾忠則さん、舟越桂さん、中西夏之さんといった作家の皆さんとお話しすることもできました。また、日本中の美術館の学芸員の皆さんともお会いすることができたのも、非常に有益だったと思います。 |