このバブルの影響なのでしょうか、美術業界の成立する基盤が大きく揺らぎつつあります。これまでは美術の評価も価格も、基準は欧米にありました。美術品は欧米が集中的に集めて、アーカイブして、歴史的な意義などを研究してきました。また、欧米の人たちはアートのマーケットに、ブラジル、中国、日本など世界中の作家の作品を導き入れて自分たちの美術館に展示してきました。しかし今のアートマーケットでのお金の流れを見ていると、インドやロシア、中国、アラブなど新興国の富裕層によって美術の歴史そのものが書き換えられる可能性があります。こうした国々には日本とは桁違いの自由に使えるお金があり、それがアートに流れ込んでいるのです。
たとえば、村上隆さんはまだキャリアは15年ぐらいですが、日本で絵を学び、ニューヨークに留学し、海外のギャラリーで個展を開き、世界中の美術館にコレクションされ、さらにはルイ・ヴィトンとコラボレーションをするなどの活動があって、作品に1億円の値段がつくようになりました。ところが中国人の作家、張暁剛(ジャンシャオガン・画家)は、世界的に「中国美術は買いだ」というサザビーズなどの後押しが功を奏したのか、あっさり2億円を越えてしまいました。ジャンシャオガンの作品はとても素晴らしい。でも、その価格の上がり方は凄かった。中国のアーティストへのサポートの厚さを見た感じです。
以前は、サザビーズやクリスティーズといったオークションに出てくる作品は、こういった一定の評価が確立した作家のものだけでした。つまり、あるレベルに達して初めて権威あるオークションに出てこれるし、買う側も「このオークションなら」と安心できたのです。しかし、5年程前からサザビーズやクリスティーズは日本、中国、インドなどアジア地域をターゲットにして、個々のギャラリーや作家個人をリサーチし、「これは売れそうだ」と思った作品を積極的に集めて次々に自社のオークションに出品するようになりました。プライマリーギャラリーで100万円の値段をつけていた作家の作品がオークションで4,000万円になってしまうといった事態が本当に起こっているのです。これはウォーホールのような歴史上のアーティストの絵1枚が80数億円になるのとは意味が違います。サザビーズやクリスティーズなどは国際的に正当な価値を作り出す場所として認知されてきましたが、このようなことが起こっていることは、大変な事態だと思います。このことをどう捉え、マーケットに反映させるかは非常に難しいでしょう。 |