起業家・ベンチャーキャピタル・投資家を繋ぐコミュニティ・マガジン

Front Interview
第1話 第2話
第3話 第4話
Vol.019 小山登美夫ギャラリー オーナー 小山登美夫第4話 産業としてのアート
コラム(4) パーソナル・データ(4)
ウォーホールの予言
 人類にとってアートは不変のもので、これから先もなくなることはないでしょう。しかし、美術品は量産できないものだけに、作家や作品の評価が上がり、需要が高まってくるとマーケット自体も変わってきます。
  2007年5月に、ニューヨークで開催されたサザビーズでアンディー・ウォーホールの作品「Green Car Crash (Green Burning Car I)」のオークションが行われました。この作品のためだけに1冊のカタログが作られ、その絵には日本円で80数億円の値段がつきました。さすがにそこまで行くと、嬉しいというより、なぜこんな高値がついたのかと戸惑う気持ちの方が強いですね。
  実は日本でも1970年代に絵画ブームがありました。一般の主婦までもがデパートに並んで絵画を利殖として買った時代です。作品の価格がどんどん上がっていきました。しかし、その崩壊はあっけなかったといいます。東京で買い付けた作品が、新幹線で大阪まで運ぶ間に値が5分の1ぐらいになってしまったことがあるそうです。もし、現在の状況がこのようなアートバブルだとすると、とても怖いことです。

アートバブルの影
 このバブルの影響なのでしょうか、美術業界の成立する基盤が大きく揺らぎつつあります。これまでは美術の評価も価格も、基準は欧米にありました。美術品は欧米が集中的に集めて、アーカイブして、歴史的な意義などを研究してきました。また、欧米の人たちはアートのマーケットに、ブラジル、中国、日本など世界中の作家の作品を導き入れて自分たちの美術館に展示してきました。しかし今のアートマーケットでのお金の流れを見ていると、インドやロシア、中国、アラブなど新興国の富裕層によって美術の歴史そのものが書き換えられる可能性があります。こうした国々には日本とは桁違いの自由に使えるお金があり、それがアートに流れ込んでいるのです。
  たとえば、村上隆さんはまだキャリアは15年ぐらいですが、日本で絵を学び、ニューヨークに留学し、海外のギャラリーで個展を開き、世界中の美術館にコレクションされ、さらにはルイ・ヴィトンとコラボレーションをするなどの活動があって、作品に1億円の値段がつくようになりました。ところが中国人の作家、張暁剛(ジャンシャオガン・画家)は、世界的に「中国美術は買いだ」というサザビーズなどの後押しが功を奏したのか、あっさり2億円を越えてしまいました。ジャンシャオガンの作品はとても素晴らしい。でも、その価格の上がり方は凄かった。中国のアーティストへのサポートの厚さを見た感じです。
  以前は、サザビーズやクリスティーズといったオークションに出てくる作品は、こういった一定の評価が確立した作家のものだけでした。つまり、あるレベルに達して初めて権威あるオークションに出てこれるし、買う側も「このオークションなら」と安心できたのです。しかし、5年程前からサザビーズやクリスティーズは日本、中国、インドなどアジア地域をターゲットにして、個々のギャラリーや作家個人をリサーチし、「これは売れそうだ」と思った作品を積極的に集めて次々に自社のオークションに出品するようになりました。プライマリーギャラリーで100万円の値段をつけていた作家の作品がオークションで4,000万円になってしまうといった事態が本当に起こっているのです。これはウォーホールのような歴史上のアーティストの絵1枚が80数億円になるのとは意味が違います。サザビーズやクリスティーズなどは国際的に正当な価値を作り出す場所として認知されてきましたが、このようなことが起こっていることは、大変な事態だと思います。このことをどう捉え、マーケットに反映させるかは非常に難しいでしょう。

日本のアートを産業に
 独立して今年で11年目になります。日本と海外のアートマーケットを行き来してきた経験から、最近は日本の美術界を産業として成立させたいと思うようになりました。そのためにはギャラリーの数をもっと増やす必要がありますし、若い作家がちゃんと食べられるような環境作りもしなければならないと思います。また日本のマーケットで流通する作品が、ワールドマーケットでも十分通用するような仕掛けも作らなければならないと考えています。
  日本のアートを産業として確立し、海外でも通用させるためには、まず、価値をジャッジする場所を日本に作ることが必要です。日本美術や陶芸のようなマーケットは、日本の美術館や、学者、美術商が評価し価格も決める、つまり価値づける権威としての作業をしてきたので、ある程度評価機能が確立している部分があります。しかし現代美術の作品はどうかといえば、いままで従来の美術館でこれらを価値づけようとする動きはほとんど行われてきませんでした。日本の美術館は、すでに価値があると思われる作品しか、コレクションとして購入できないとのことです。本来権威としていち早く、新しい価値を見極めコレクションしていくのが本来の美術館のあり方ではないかと思います。その機能が本当に歴史を作っていくために必要なのです。
  私は現代美術の作家や作品を評価し、作品の価値を高め、お金と結びつけていきたいと思います。つまりビジネスとして成立するように日本のアートマーケットを変えていきたいと思っています。最近は日本でもコンテンポラリーアートがブームとなり、メディアでも盛んに取り上げられています。これを単なるブームで終わらせるのではなく本格的な流れにしていきたいのです。
/

HC Asset Management Co.,Ltd