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Vol.019 小山登美夫ギャラリー オーナー 小山登美夫第3話 商人道開眼
コラム(3) パーソナル・データ(3)
アートのラインナップ
 画商としての私の仕事は、作家や作品を選ぶことから始まります。まず最初に作品を見たときに、この作品は美術史上のどこに、どのように位置づけられるのかを判断します。そのためには自分の中にしっかりした美術史のマップが必要です。また、現在全世界のコンテンポラリーアートのギャラリーにはどのような作家がいるのか、 そして、それぞれがどのような活動をしているのかも調査します。そうした情報を常にアップデートしながら、新しい作家や作品の、どこに独自性があって、どこがアピールするかを見極めるのです。もちろん今ある作品を評価するだけでなく、新しい表現やプロモーションなどのアイデアを作家にフィードバックすることもあります。とくに、意外かつ斬新なストーリー性をもっていたり、これまでに見たこともないような表現力をもっている作家には注目していきたいですね。
  しかし、こうして発見した若い作家に対しては、作品の価格を安く設定して、まず売れること優先します。そのために、若い作家のもつ将来性を重視するコレクターなどに紹介していきます。若い作家の場合は、実際に売れたという実績を残すことが大切です。買った人たちはアーティストを応援する。この積み重ねで作品を世間に広げていき、ニーズが増えてくるようになった時点で、著名なコレクターや美術館などに紹介していきます。実力に見合って価格が上がってくると、「さらに良い人に売りたい」といった気持ちになるのは事実です。
  ギャラリー経営者の中には自分なりの美の基準を持ち、自分に合った作家を見つけて育てていく方もいます。しかし私は、ギャラリー経営は趣味ではなく、あくまでもその作家が社会にとって重要かどうかが、ビジネスの鍵になると考えています。ですからラインナップを整えるために、自分の今までの美術観と違っていたり、あるいは、超えてしまっているような作家であっても、その作品が今の時代を真剣に捉えているものなら、躊躇なく扱います。 一見、バラバラに見えていても、そこにこそいろんな可能性があるのではないかと思うのです。

商売の根源にあるもの

 絵や映画が好きで一生懸命に見ていた時代には、つまり受け手の時代にはお金のことなどまったく頭にはありませんでした。西村画廊にいた頃も、アートのお金のことでは作品の定価という認識しかありませんでした。白石コンテンポラリーアートでもやはり甘かったと思います。しかし、自分でギャラリーを経営するようになってから、つまり送り手側になってからは意識がまったく変わりました。お金のことはしっかりと考えないとやっていけません。また、アートだけではなく、世間の動向やブームに無関心ではいられません。さらには、作品の量を確保する必要も痛感しました。
  ベンチャービジネスの経営者の方は世の中の流れをじっくりと観察して、新しいものを見つけると「これなら行ける」と起業されるのだと思います。私も同じように、現状アートの世界で起こっているムーブメントをじっくりと観察し、その中からどうやって利益を得ていくことができるかを考えています。あまり適切な表現ではありませんが、私は小山登美夫ギャラリーを総合商社のような多角的なものにしていきたいと思っています。私がアートマーケットに働きかけることでその需要を大きくし、さらにビジネスとして発展していくようになっていけばいいと考えています。
  そのためにも経営者として、アーティストや顧客のフォローをしつつ、会社全体のマネジメントを確立したり、スタッフと顧客のリレーションシップをきちんと取れる環境を整えていくことも私の仕事です。また、細かい事務など私自身が不得手な仕事もちゃんとできるスタッフを育てなければいけないと思っています。組織やお金の話ばかりになってしまいましたが、やはり、ギャラリー経営の根源にはアートがありますから、「いくら儲けるか」だけではなく、「作家をどうやって世間に知らしめていくか」「作品を正当な評価ができる人の手に送り届けたい」ということは常に考えていますし、これは会社がどんなに大きくなっても変わらないことです。


(9月26日更新 第4話「産業としてのアート」へつづく) 




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