高校までは数学が大好きで、将来は数学の研究者になろうと思い、大学は上智大学理工学部の数学科に入学しました。しかし大学の数学というのは思いのほか難しくて、とても私には歯が立たなかった。当然、研究者になる夢は諦めました。大学に入学してからは、スペインに興味を持つようになりました。きっかけは、中学からはじめたクラッシックギターとスペイン音楽でした。音楽だけではなく、スペインは、歴史に関する本を読んだり、エルグレコ、ガウディなどの美術や建築に惹かれ、歴史や文化が好きになりました。
理工学部の学生なのに外国語学部のスペイン語学科の先生に頼み込んで授業を取らせてもらったり、夜も語学学校に通ってスペイン語を学んだりしました。一時は「人生をスペインに賭けよう」とまで思い詰めていました。ある日、授業を受けていたスペイン語学科の先生に「スペインに留学させてください」と直訴したのですが、先生からは「まだまだ勉強しなければいけないことがある」、時期尚早と説教されてしまいました。それでも私は食い下がりました。とうとう、先生はホームステイ先を紹介してくれました。スペインのサンタンデールという日本人が1人もいない田舎町で2カ月間のホームステイプログラムに参加しました。土地の人々はみんな優しくて、こちらの思いを汲んでくれるので、言葉はわからなくても、こちらに伝えようとする気持ちさえあれば、通じるものだということを学びました。おかげで、今は外国人に対する恐怖感といったものはまったくなく、どこの国の人でも普通におつきあいできます。いまの仕事でこの経験はとても大きかったです。
大学時代、もう一つ熱中したものがあります。それがダンスでした。人生を賭けるものをコロコロ変えてはいけないのでしょうが、一時はダンスを職業にすることも考えていました。私の親戚に振付家の坂上道之助(故人)がいます。NHKの番組「ステージ101」でダンスを踊っていて、その後NHKの「おかあさんといっしょ」やミュージカル「屋根の上のヴァイオリン弾き」などの振付をしていました。私が「ダンスを職業にしたい」と話したところ、「久はセンスがないから無理だよ」といわれてしましました。この一言でダンスを職業にすることを諦めました。