起業家・ベンチャーキャピタル・投資家を繋ぐコミュニティ・マガジン

Front Interview
第1話 第2話
第3話 第4話
Vol.022 財団法人ベンチャーエンタープライズセンター理事長 濱田隆道第4話 逆風に向かう
コラム(4) パーソナル・データ(4)
バンド・オブ・エンジェル
 1994年に設立されたシリコンバレーの「バンド・オブ・エンジェル」というビジネスエンジェルネットワークのプロトタイプにも会ってきたのですが、彼らは総勢125名で、毎月100件のプロポーザルを見ているというのですね。しかも半導体のプロジェクトなら、半導体の専門家6名で判断する。プロポーザルを読み、デューデリジェンスをして、一人平均月に5社をこなします。最終的に残るのは100件のうち1〜2社ぐらいだそうです。
 彼らはそのプロセスを毎月繰り返しているのです。キャピタリストの仕事を個別のエンジェルが行っているわけで、すごい勤勉さです。企業OBや弁護士、ベンチャー経営者など、多彩なキャリアの人たちが集まったネットワークで、エンジェル自らが、そこで汗をかいている。
 バンド・オブ・エンジェルのうち、リターンを得ている人は少数で、多くはそこそこの成果を出していますが、投資した金額がなくならない程度だそうです。それでも楽しいといってやっている。日本ではエンジェル投資は慈善事業だと思い込んでいる人がいますが、そうではなくて、きちんとリターンを取るストラクチャーを構築しています。それが大前提になっています。

コンパーティブル・ノート・ストラクチャー
 今回、ビジネスエンジェルたちが、いかにIRRを取るためのストラクチャーを作り上げているかということがよくわかりました。個別では収益を上げていないケースでも、その確率を高めるために、並行してファンドも作っているのです。
 個別のエンジェルは資金に限りがありますが、並行して作られたファンドは各エンジェルがいいと判断した案件にはすべて投資をしています。そして、そのパフォーマンスがすごい。彼らが1997年にファンドを開始してから10年間でのIRRが57%に達しています。米国のベンチャーキャピタルのリターン・ターゲットが35%といわれ、しかもそれを達成できているベンチャーキャピタルは限られたエリートVCであるということを考えると、すごいリターンです。
 今回、もう一つ驚いたことが、「コンパーティブル・ノート・ストラクチャー」という貸し付けの手法です。日本語では「株式転換可能無担保ローン」とでも呼べばいいのかもしれませんが、これは、まず最初に必要資金を貸し付けた際に、元利返済を求めないのです。純粋な貸し付けだと、すぐに返済が始まるので成長資金たりえません。ベンチャー企業にとって創業時は、まだまだプラン段階で、モノもできていないし、もちろんキャッシュフローが生まれるわけもないので、いちばん苦しい時期です。このキャッシュが回転していくまでの1、2年の間、資金が流出しないことは、ベンチャー企業にとって重要です。

金融メカニズム上手
 この手法は、たとえば1億円貸し付けて金利10%に設定すると、何年後かに転換する取り決めにします。期末には年利10%相当の金利がのって元利合計が1億1,000円になりますが、それは債権が増えただけの状態です。2年目には1億2千万円になりますが、かりにもしその段階で会社がある程度成長し、ベンチャーキャピタルの投資資金が入ってくれば、そこからその債権分を転換するという仕組みになっているのです。ただし、元々の1億円はそのまま残っているので、ベンチャーキャピタルが入ってきてもエンジェルは出ていかずに、最後のイグジットまでついていきます。
 企業側とすれば貸し付けてもらっているだけですから、資本金による支配ということはないし、心理的な抵抗感も少ない。最初、この話を聞いた時は絶句しました。こういう手法があるということを、日本のベンチャーキャピタル業界の人は誰一人として知らなかったのです。
 あとでわかったことですが、MBAコースでは、「コンパーティブル・ノート・ストラクチャー」のことはみんな勉強するのだそうです。日本でもMBAを取得している人は数多くいるわけで、でも知っていても使わなくちゃしょうがないですよ。とにかく米国人というのは、金融のメカニズムを作るのが上手い、そう思います。



HC Asset Management Co.,Ltd