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VC vision
前編 後編
第23回 ベンチャーとともに、ベンチャーを歩む。 前編  リスクキャピタルの担い手として
株式会社TNPオンザロードは、
神奈川県を拠点にベンチャービジネスの支援事業を展開する
TSUNAMIネットワークパートナーズのベンチャーキャピタル部門を
独立させて設立したベンチャーキャピタル。
前編では、ベンチャー支援のプラットフォームの確立に力を注いできた
TSUNAMIネットワークパートナーズの問題意識と、
そこからベンチャーキャピタル事業に特化した
TNPオンザロードが設立された経緯とその理念についてうかがった。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
メンバーズ一覧主な投資先事例
新しいバリューをクリエイトする

【森本】 ファンドのコンセプトはどのように立てられているのですか。
【山下】 ハンズオンも、運営方法もTSUNAMIネットワークパートナーズで経験したものを引き継いでいます。ただ、TNPオンザロードの会社としての理念を改めて作っていていますので、それを生かしていることが新しい点になります。
【森本】 その理念についてお聞かせください。
【山下】 TNPオンザロードの理念は三つあります。その一つが、「リスクキャピタルの担い手として新産業創造の基礎たるベンチャーキャピタルであらんとすること」です。これには明治時代に設立された国立銀行の一つである第百三十銀行の社是にある、「工業の基礎たるべき銀行」という言葉に由来しています。私が、この創設者の松本重太郎の人物像が非常に好きだということもありますが、我々は、新しいバリューをクリエイトするものとしてのリスクマネーを基礎に、新しい産業を作り出す手助けをする役割を果たさなければなりません。ですから、会社として皆で共有すべき価値観として、この一つ目の理念を掲げました。二つ目が「新産業創造を通じて経済の発展と拡大に寄与し、人類社会の成長に貢献すること」、三つ目が「社会性、公共性、公益性をになうものとすること」です。確かにベンチャーキャピタル事業を通じて利益の極大化を目指すことは基本ですが、儲かれば何でもいいということではないということです。社会に存在するさまざまな人々にとって有益である事業の確立、発展に尽力することで、結果として収益を上げられることを大事にしたいというのが我々の考えです。もっといえば、社会に全力で貢献することが、利益を極大化するための道なのだという気持ちが、この二つ目と三つ目の理念には込められているのです。 
【森本】 2号ファンドのご予定はあるのですか。
【山下】 1号ファンドは、すでにフルインベストメント状態になっていますので、現在2号をファンドレイズ中です。
【森本】 規模はどれくらいで実施するのですか。
【山下】 上限を300億円に設定しています。日本と海外で半々の比率で考えています。
【森本】 海外の投資家の出資を募るのはどうしてですか。
【山下】 我々が投資する会社のターゲットはグローバルです。そして、我々の投資対象に対する判断は、世界のマーケットの中で、競争力のあることが一つの基準となっています。そのためにも、海外でネットワークを持つことは、非常に重要となってきます。ゆえに資金もグローバルに集めたいという考えでいます。
【森本】 どの地域で展開しておられるのですか。
【山下】 ヨーロッパの投資家は非常にコンサバティブです。米国は、シリコンバレー、ボストンというベンチャービジネスの聖地にチャレンジ的な資金が豊富にありますので、いまはここを中心に動いています。しかし、2号目のファンドで実績ができれば、その次のファンドレイズでは、ヨーロッパや中東にも出向こうかと思っています。
【森本】 海外の投資家にはどのようにコンタクトしているのですか。
【山下】 地道に1件1件回っています。去年の8月くらいから現在までの間に60件以上は回りました。しかし、これは、最初ですから、ファンドの案内というより我々のことや日本のベンチャー企業を取り巻く環境を知ってもらうことが第一になります。我々のコンセプトと実績、今まで築きあげたTSUNAMIのオープンプラットフォーム、ネットワークそしてテクノロジーとサイエンスの分野にある日本のベンチャー企業について説明をして回っているところです。
【森本】 回る対象はどういうところをターゲットとしていますか。
【山下】 銀行、ファンド・オブ・ファンド、証券会社、年金、学校法人の財団、独立系のプライベートエクイティなどです。

日本には開発型ベンチャーがないといわれている

【森本】 米国での投資家の反応はいかがですか。
【山下】 投資家から一番いわれることは、日本には開発型のテクノロジー系ベンチャーがないということです。本当はたくさん開発型ベンチャーはあるのですが、しかし、それはある意味では真実でもあるのです。たとえば、マザーズ、ヘラクレスの上場銘柄を見ても、三百数十社のうち、製造業のカテゴリーに分類される企業は、ほんの1割程度にすぎません。そして、国際競争力のある製造業系のベンチャーというと、さらにその1割程度です。それくらいに日本では、研究開発型のベンチャーが出てきていません。なぜかというと、日本は、歴史的に間接金融主体の産業構造にあって、エクイティのファイナンスは、大手企業を対象にした仕組みでできあがっているのです。ゆえに、何の資産も持たないが、テクノロジーやIP(知的財産)を持つベンチャーがチャレンジして、短期間にエクイティでファイナンスして、それで開発からマーケティングや設備投資をして、レバレッジを利かせて収益を上げるというファイナンス・スキームが存在していなかったわけです。
【森本】 新興市場の制度ができたのはいいけれども、そこに関わっているプレーヤーが、研究開発型のベンチャーにおいて短期のエクイティファイナンスを実行する経験もなければ、感性も育っていなかったのですね。
【山下】 ですから、ベンチャー企業の研究開発から売上が立つまでの3年から5年の期間に、どうファイナンスをつければいいのか、どういうバリュエーションをつければいいかがわからない状態にあるわけです。だから、結果として、開発型のベンチャーをIPOまで支援して行くためのプロセスがうまくできなくて、ほとんどのIPO企業がキャッシュフローの見えやすいビジネスの企業になってしまっているのです。つまり、そういう企業にベンチャーキャピタルの投資が集中してしまっているわけです。不動産業やサービス業、住宅会社、流通業などがほとんどです。日本ではそれでもそういう企業をベンチャーだというから何がベンチャーかわからなくなる。別の表現で整理すると、ベンチャー支援と中小企業支援と企業再生がごちゃまぜに議論されている土壌なんです。そこで、海外から見ると、日本にはテクノロジーベンチャーはないじゃないかとなってしまうのです。
【森本】 それに対して、山下さんはどのように対応しているのですか。
【山下】 米国のLP(リミテッドパートナー)の投資家はよく勉強されていますから、日本は間接金融主体で大企業に優れたテクノロジーがあることはよく理解されています。ですから、1990年代以降のパラダイムシフトで、テクノロジーがどんどん大企業から押し出されてきている状況の話と、その受け皿としてTSUNAMIというシリコンバレー的なプラットフォームを作っているということを説明します。そして、毎日のように開発型ベンチャーの新規案件が来て、年間300社くらいを見ていると話していくわけです。そして、日本に高いテクノロジーがあることと、シリコンバレー的に短期間でレバレッジを利かせてイグジットさせる手法、プラットフォーム、プレーヤーが存在しているという事実を伝えていきます。2000年以降、我々は、そういうチャレンジをしてきているわけです。

後編 「成長というリターン」(1月23日発行)へ続く。


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