【森本】 案件の発掘はどのようになさっていますか。
【山下】 我々は、受け入れるドアを大きく開けていますから、いろんな案件が、いろいろなところから、いろいろな形で入ってきます。いま、我々のメールマガジンの「TNP通信」を6,000人近い人たちにお送りしていますが、その読者からも案件情報が入ってきます。この方達は私たちが直接お会いして、TNPの理念から活動までちゃんとご理解をいただいている顔の見えている人たちです。また、月1回開催するビジネスプラン発表会で関係を持たせてもらっている人たちもいます。こうした関係性の構築は、シリコンバレーの本質であるパーソナルな信頼関係に近いもので、我々も、パーソナルなネットワークの中でベンチャービジネスのクリエイティブを志向しています。このことは非常に重要なことで、新しいパラダイムでは会社と会社という組織の関係ではなく、パーソナルな信頼関係でネットワークが構築されていく時代なのです。したがって私たちのところに入ってくるディールは組織や会社の壁を越えて入ってきます。
【森本】 案件の投資へ至るプロセスはどのように進められていますか。
【山下】 すべてのものには限りない可能性がある、というのが我々のキーワードです。ですから、絶対にノーからは入らないという原則で取り組みます。また、投資先には可能な限り我々が出向いて、投資案件の現場を実際に見てお話を聞くことも重視しています。そのときも、基本的には担当チーム全員で行きます。なぜそんなに大勢で来るのか、とよくいわれますが、やはり、皆が同じものを見て同じ認識で議論をしないと、細部での議論ができないのです。新規性のあるテクノロジーになればなるほど、口で説明してもリアルには伝わりません。チームで共通の認識があれば、問題が起きたときにも、スピーディーな判断がしやすくなります。情報の共有化、共通の認識、コミュニケーション、そして迅速な行動と判断です。
【森本】 チームの構成はどのようになっていますか。
【山下】 インベストメントマネジャーに、アシスタントとアソシエイトが1名から2名、そこに投資委員会のメンバーが入ります。そのメンバーで現場にいって話を聞きます。もちろん、投資可能な案件とそうでないものがありますが、我々は、お断りするケースでも、必ず先方に出向いて、その判断の理由をきちんと説明します。それは、その後のフォローの問題でもあるのですが、たとえば、そのテクノロジーが、今は時流に乗っていなくても、何年かあとにそのテクノロジーやビジネスモデルが必要になってくる場合があります。実際にも、そういう例はありました。ですから、お断りしたあともサポート展開をさせてもらうことが少なくありません。
【森本】 ほう。
【山下】 よく技術の「目利き」はどうしていますかと聞かれます。しかし、そもそも「目利き」とは何でしょうか。新規のテクノロジーがその時点でどうかを判断するのはそもそも無理があると思っています。既知の情報がないわけですから。「見識者」といわれる人に聞いてもわからない世界なのです。たとえば、エレクトロニクスのカテゴリーで、新しいデバイスがあったとして、そのテクノロジーをピンポイントのところで理解できるのは、その技術の奥深くに関わっている人だけです。逆にいえば、そういう人にたどり着けるだけのネットワークが重要になってくるわけです。そういう意味で、6,000人のネットワークは非常に貴重で、そうしたルートで技術の将来性を確認し、そして、グローバルな競争力があると判断できれば、投資判断をすることになります。重要なのは無限の可能性を認識できれば、後はどう支援していくかで、新規性の高い技術ほど既存のアプリケーションでは判断できないものがあります。できるだけそのビジネスに近い人にヒアリングができるためにも信頼のネットワークが重要になります。
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