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VC vision
前編 後編
第23回 ベンチャーとともに、ベンチャーを歩む。 後編 成長というリターン
「神奈川県を日本のシリコンバレーに」という理念を掲げる
TSUNAMIネットワークパートナーズの子会社のTNPオンザロードは、
ベンチャーキャピタルとして米国のシステムに倣うだけでなく、
日本の産業文化に根付いた独自の理念の展開を志向している。
外国人スタッフを積極的に採用するのも、
TNPオンザロードの理念を外国人投資家へ理解させる目的からだ。
後編では、TNPオンザロードが目指すベンチャーキャピタルの理念と
その具体的取組みのあり方をうかがった。
interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
メンバーズ一覧主な投資先事例
キャピタリストがプレーヤーになってはいけない

【森本】 キャピタリストの知的なバランス感覚が大事になってきますね。
【山下】 非常に大事です。我々は、テクノロジー・サイエンスにフォーカスしていると同時に、テクノロジーの応用分野も対象にしていることをアピールしています。
【森本】 ベンチャーへの投資、育成におけるキャピタリストの仕事はどのようなことだと考えますか。
【山下】 まずは、キャピタリストとベンチャー経営者がお互いによく知る努力をすることです。その中で、経営者が何に悩んで、どういうサポートが必要なのか明確にしていくという関わり方です。我々の仕事は、ゴルフにたとえるとキャディーのような存在なのです。プレーヤーとの信頼関係が大事なのであって、プレーヤーがキャディーを必要とするときにそばにいてあげないといけないわけです。しかも、そのゴルフコースに関して熟知していなければなりません。それが我々の仕事です。さらに、重要なことは、プレーヤーになってはいけないということです。キャピタリストがベンチャーの中に入って、実際にハンズオンする過程で、自分で動いてしまうことがありがちです。私自身もそうした経験があります。しかし、それは非常に危険で、客観性を失ってしまうのです。
【森本】 イグジット戦略はどのように考えられていますか。
【山下】 一つは新興市場へのIPOです。現在、マザーズもヘラクレスも上場基準が厳しくなっていますが、ジャスダック証券取引所に「NEO」というテクノロジー・サイエンスにフォーカスする市場が新しくできました。我々は、このNEOにも期待してイグジットを想定しています。もう一つは、M&Aです。大企業があるステージから出資して関わってくれるケースがありますが、そのベンチャーが売上を出してバリューを生み出してきたとき、その大企業がベンチャーを買収するというケースもあります。ただ、ベンチャー企業に関して、日本ではM&Aのマーケットはまだまだできていません。日本の大企業は同じステージのベンチャー企業でもアメリカなら300億円出すのに日本だと数億円しか出さないという具合です。バイオなんか特にその傾向が強いですね。開発型のベンチャー企業のIPO自体がそんなに数が出てきていませんから、マーケットバリューが表現できていない状態なのです。
【森本】 今後の展開はどのように考えられていますか。
【山下】 TNPオンザロードには、ベンチャーキャピタルとして二つの責務があります。一つは、出資をしてくださる投資家の皆さんへのリターンの極大化と、もう一つは、テクノロジー・サイエンスの分野の開発型のベンチャーを投資しながらサポートしていくことです。この二つに整合性をつけて実現させていくことが、我々の最も重要なミッションになります。

リターンの極大化とベンチャー育成を実現する

【森本】 具体的な動きは出てきているのですか。
【山下】  いま、TSUNAMIネットワークパートナーズを中心にですが、2006年に、横浜国立大学と「よこはま高度実装技術コンソーシアム(YJC)」という新しい産学連携のスキームを確立しました。大企業の中でマーケットのあるテクノロジーの課題を大企業のOBの方々から出してもらって、横浜国立大学を中心にして神奈川県下にある大学で研究してもらい、ある程度インキュベートされた段階で事業性の可能性が見えればベンチャー企業に移行して事業化していくシステムです。そうするとリスクマネーも入れられるし、資本政策で関わった人達に成功を按分する仕組みができます。すでに2年目に入って「OBの会」を中心に実質的な活動が拡大してきています。それから、CEO、CFOの人材ストックが大変重要になってきています。これも、横浜国立大学経営学部との連携で、CEO講座を開設して人材育成を図るプロジェクトをスタートさせています。米国のビジネススクールにはMBAという経営者資格コースがありますが、米国の経済合理性の中で組み立てられた考え方がそのまま日本で通用するのだろうか、という問題意識があります。
【森本】 なるほど。
【山下】 だから、日本の土壌にあった経営のあり方を、特にテクノロジー系の開発型ベンチャーにフォーカスしたCEO、CFOを育てなければならないと考えています。この講座は、我々の7年間のデータベースをもとに、横浜国立大学経営学部の先生に分析してもらったものを体系化する予定で準備を進めています。また、IMBNベンチャーといって、韓国のソウル大学のイム先生と共同でベンチャーキャピタルを設立いたしました。中国・韓国・台湾だけでなくアジア全域にいるサイエンティストの方々のネットワークを網羅していて、テクノロジーも含めてヒト・モノ・情報が集まる仕組みになっています。
【森本】 日本では創薬ベンチャーが育ちにくい土壌にありますが。
【山下】 はい。厚生労働省、大手製薬会社による縦の構造ができあがっていて、ベンチャーが育ちにくい環境にあります。たとえば、日本の創薬ベンチャーが前臨床を終えて、臨床試験に臨もうと思っても、GMP基準の薬を作るのに大手企業はなかなかベンチャーと一緒にワークしてくれません。それをアジア諸国で臨床試験に臨めるようなプラットフォームを作ろうという計画を進めています。ソウル大学のイム先生には、A−IMBNというアジアの分子生物学のネットワークもありますから、そことの連携もやっています。もう一つは、証券会社との連携があります。ここでは、エース証券と一緒に新しいベンチャー投資・育成の仕組みづくりを考えていこうとしています。こうした一つ一つのプランが、投資家へのリターンの極大化と開発型ベンチャー育成を実現させていくのに必要なプラットフォーム作りにつながっています。これらを展開しながら、さらに必要なアクションを続けていくことになります。TNPオンザロードは、そうした事業をTSUNAMIネットワークパートナーズと共同歩調をとりながら、進めていきます。



インタビューを終えて

1990年代以来進行している日本の伝統的な間接金融のシステムから直接金融システムへの移行は、ベンチャーキャピタルのビジネスチャンスを一挙に拡大する画期を生み出した。しかし、企業では直接金融を活用した資金調達スキームは未整備のままの状態がつづいている。ここに一抹の混乱が生じている。TNPオンザロードは、こうした日本の産業界のパラダイム変換で起きている問題の本質を冷静に分析することで、オリジナリティあふれるベンチャーキャピタル事業を確立している。日本に起きている変化を「時代の流れ」と捉えるだけでは、変化に対応することはできない。TNPオンザロードの詳細に進めた情勢分析に裏付けられた戦略には、米国でもない、ヨーロッパでもない、日本にふさわしいあるべきベンチャーキャピタルの姿を見ることができる。(森本紀行)

次号第24話(2008年2月6日発行)は、ネクスト・ハンズオン・パートナーズ株式会社 以頭博之さんが登場いたします。


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