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VC vision
前編 後編
第27回 ベンチャーの世界に革命を 後編 勝てる技術の目利き
株式会社ルネッサンス・エナジー・インベストメントの一番の特徴は、
材料分野の新技術に特化した新事業開発で、
どこにも例のないまったく新しいビジネスの創出を目指しているところだ。
後編では、発掘した新技術を事業化するまでに取り組まれる、
同社ならではのインキュベーションの手法に焦点を当てて話をうかがう。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
グループ主要メンバー主な投資先事例
マーケットが見えなければ技術の応用はできない

【森本】 一本松さんのようなスタイルで投資活動を行っている人はほかにいますか。
【一本松】 いや、知らないですね。同じようなことをしているところはないです。ただ、大阪大学の大学発ベンチャーであるアンジェスMGには少し似ているところがあるかもしれないですね。
【森本】 現在の二つの特別目的会社の事務、総務、会計といったマネジメントは、一カ所に集中させているのですか。
【一本松】 はい。EXITの際には分けないといけませんが、別々にやると効率が悪いので、マネジメントと事務は集合してやっています。プラットフォームにして特別目的会社が委託しているという形です。
【森本】 技術の対象は、大学の技術研究にフォーカスしているのですか。
【一本松】 そうです。技術者に起業家として才能があるのなら、その方がおやりになればいいと思いますが、なかなかそうもいきません。我々としては、この大学の基礎研究から「勝てる技術」に焦点を置いて、技術が優れていればそれに合わせた人を連れてきて、商品化や販売法の研究をするわけです。ただ、この応用分野も結構難しくて、何に応用できるのかを発想するのが、我々の重要な仕事になります。変わった材料だけど何に使えるのかわからない、というものが非常に多いですからね。
【森本】 一本松さんがおっしゃる目利きとは、技術の目利きだけではなくて、マーケットで勝てるということまでを含めて判断することなのですね。
【一本松】 もちろんそうです。我々はビジネスマンですから、マーケットが見えてなければ、技術の応用はできません。
【森本】 マーケットに対応して技術の応用分野を開発するために、ノウハウのようなものはあるのですか。
【一本松】 そうですね、逆にいえば、一つの技術に対して必ず応用分野を見つけなければいけないわけではないですから、ひらめかなければやらなければいいわけです。技術のオリジナリティのレベルの高さがあれば、結構アイデアは浮かんでくるものです。また、社会のニーズが変化してくれば、技術状況も変わってきますから、そこはいろいろだと思います。
【森本】 ニーズの読み方には、コツはありますか。
【一本松】 発想はひらめきなのでしょうが、実証することが大事です。現場に聞くとか、ユーザーの声を聞くとかです。ただ、ユーザーの声を聞くからユーザーのいうとおりにするということではなくて、ユーザーが潜在的に持っている真のニーズを掘り起こして、そこに絵が書ければ、それをやるということですね。やはり、ニーズは創り出すものだと思っています。

社会に役に立たない技術はやらない

【森本】 現在社員は何名いらっしゃるのですか。
【一本松】 名古屋と京都の二カ所の事務所と、特別目的会社を含めると30数人です。
【森本】 その中で、技術を見立ててインキュベーションしていくメンバーは何人くらいになりますか。
【一本松】 それは私一人です。自分で責任持って全部自分でやるということです。もちろんスタッフの意見は聞きますが。
【森本】 技術への投資判断の際、どのような基準をお持ちですか。
【一本松】 投資判断の基準というものは、ある意味、他人に対して説明するために使われているところがあると思うのですね。自分が全部責任を持つわけですから、自分の好き嫌いで決めたらいいと、私はそう思っているのです。技術のインキュベーションの場合は、採点表を作ったところで、役に立たないと思っていますし、自分で考え抜いて「いける」と思うものはいくし、「難しい」と思えばいかないというだけのことです。もちろん、特別目的会社を作って投資家に出資を募った際に賛同を得られなければ、それまでです。
【森本】 技術の好き嫌いのポイントは何ですか。
【一本松】 社会に役に立たない技術は儲かると思ってもやりたいとは思いませんね。やはり、王道を堂々といきたいですからね。一度やり出せば、目的のために手段を選ばないくらいでないと儲けは出せませんが、踏み出す前には選択肢があるわけですから、自分の趣味に合わないものにはいくら儲かりそうでも手は出しません。もちろん、技術を持っている先生と気が合わなければ、話になりませんが。
【森本】 海外での活動は考えていらっしゃらないのですか。
【一本松】 我々は医薬分野でもやっていますから、海外の技術も追いかけています。米国西海岸に一人だけですが担当者を置いています。ただ、なるべく製薬の許認可以外のことは国内でやりたいとは思っています。ただ、海外について拒否感があるわけではないですから、IPOにしろEXITは海外での可能性も探っています。
【森本】 技術はともかく、投資家は海外を無視しえなくなっていますからね。
【一本松】 そうですね。米国、ヨーロッパだけでなく台湾、中国も重要度を増していますからね。それに、IPOをするのも、ジャスダックよりナスダックや台湾のほうがやりやすいです。
【森本】 自身の会社をIPOすることはないのですか。
【一本松】 あまり考えていないです。自分が引退したときに、後継者がいない事業はIPOするのはまずいと思っています。もちろん、後継者ができてくれればいいのですが、そう簡単にもいかないでしょう。自分の会社の少数株主には特別目的会社がEXITとした時に還元したいと思っています。


インタビューを終えて

今回の取材で注目したことは、株式会社ルネッサンス・エナジー・インベストメントが素材、材料の技術に特化して投資していることだ。新素材、新材料は、その用途には無限の可能性をもっており、どんな新しいビジネスを生み出すかは、まさにその技術の応用力にかかっている。同社社長の一本松氏が「ビジネスモデルで勝負しているわけではない」と語った言葉は、まさに、無限に広がる新材料の可能性を手にした自信を如実に示すものだといっていいだろう。新材料分野の技術研究は、日本のお家芸ともいえる分野でもある。同社のオリジナリティあふれる投資スタイルとあいまって、日本の新産業創出の期待を抱かせる活動ぶりには、大いに頭が下がる思いがするものである。(森本紀行)

次号第27話(2008年6月4日発行)は、コアピープル・パートナーズの本間真彦さんが登場いたします。


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