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VC vision
前編 後編
第32回 大和SMBCキャピタル株式会社 後編 日本型ベンチャーキャピタルを目指して
大和SMBCキャピタルは、株式市場に上場するベンチャーキャピタルとして、
株主、出資者への利益還元を第一義に掲げる。
そして今後は、より高い投資収益をあげるために、ベンチャーキャピタルにとどまらず、
バイアウト投資部門にも注力して総合的なプライベートエクイティ会社を目指すという。
後編では、日本が独自に形成すべきベンチャーキャピタルモデルのあり方を、
執行役員 投資第一部長の横山英世氏に語っていただいた。

interviewer:森本紀行(ベンチャー座アドバイザー、HCアセットマネジメント代表取締役社長)
投資先事例

今後はバイアウト部門を強化していきたい

【森本】 現状の課題と、これから変えていこうとしていることは何ですか。
【横山】 会社の方向性としては、これまで国内企業の投資が多かったわけですが、海外投資へのシフトに注力していこうというテーマがあります。それから弊社にはベンチャーキャピタルとバイアウトの両方の投資部門を持っていますが、今後はバイアウト部門を強化していきたいという考えがあります。
【森本】 バイアウトはどの部署が担っているのですか。
【横山】 事業投資部が1部から3部まであり、そこがバイアウト投資を担当しています。
【森本】 上場しているベンチャーキャピタルというのは、世界的には稀ですが、とくに日本では、ファンド連結と金融商品取引法の問題があって、これがベンチャーキャピタルの経営にかなり影響を与えているのではないでしょうか。
【横山】 おっしゃるとおりです。弊社も今年の3月に第二種金融商品取引業者になりました。これからはベンチャーキャピタルも、こういう認可を受けていかなければならない状況になっていくと思います。国内のベンチャーキャピタルは約200社あるといわれていますが、しっかりしたガバナンスとコンプライアンスのあるベンチャーキャピタル以外は、通用しなくなっていくと思います。
【森本】 ベンチャーキャピタルは、アメリカでもどんどんウエートが落ちていて、むしろ、すごく古い会社でも世代交代する際に投資するグロースキャピタルが増えていますよね。
【横山】 そのとおりだと思います。
【森本】 御社でも、10月から社名の「ベンチャーズ」という言葉がなくなったわけですが、そこには、ベンチャーキャピタル以外も含めた総合的なプライベートエクイティ会社に広がっていくことを意味しているわけですか。
【横山】 そうです。弊社のように大きな組織を持つ会社では、プライベートエクイティの総合的なファイナンスの会社になっていかざるをえないと思うのです。
【森本】 それはそれで、日本的なモデルとしてありえますよね。
【横山】 ええ、いいと思っています。業態も、投資銀行的なものに少しずつ変わっていくかもしれません。日本のベンチャーキャピタルは、シリコンバレーの有名なクライナー・パーキンス・コーフィールド・アンド・バイヤーズだとかセコイア・キャピタルといったベンチャーキャピタルとは違いますからね。

日本のベンチャーにも社会に貢献してほしい

【森本】 アメリカではファンド運営者に継承者がいませんから、パートナーが高齢化したらそこで終わりになると思います。
【横山】 当社でも新入社員で入社してくる者の中には、そういうアメリカのキャピタリストにあこがれている者もけっこういますよ。
【森本】 私はベンチャーキャピタルの日本的なスタイルを考えていかないといけないと思うのです。
【横山】 私もそう思います。ただ、私がやりたいと思うのは、2006年にグーグルがYouTubeを株式交換で2000億円以上で買収しましたよね。それも、YouTubeができてから2年も経っていないときにです。そういう投資を日本でもできないかと思っているのです。日本発のベンチャーで世界に羽ばたいていけるベンチャー企業に投資したいという思いがあります。日本のベンチャーにも社会に貢献してほしいと強く思います。そういうベンチャーへの投資に関わりたいと思いますね。
【森本】 アメリカを見ていて思うことは、経営モデルがいいから成功しているのではなくて、後ろに強力なファイナンスのスキームがあるから成功しているのではないか、ということです。日本はみんな細かいファイナンスで投資しているので、みんなうまくいかないのですね。特定のところに巨額のファイナンスをつければ、うまくいくと思うのです。日本には経営者がいないとか、投資機会がないといわれているのは、明らかに間違いだろうと思います。そうではなくて、日本には、集中的にファイナンスをつけるスキームがないのだと思うのです。
【横山】 そうですね。
【森本】 でも、上場企業として株主のことを考えたら、そういう集中させる投資のあり方は受け入れられないかもしれないですね。
【横山】 確かに1回の投資で出せる金額は、限られていますからね。ひとつの企業に1回で50億円、100億円と出せればいいのですが、日本では、やはりそうはいかないですね。
【森本】 1,000万円くらいの投資で時価総額が1兆円の企業ができるわけがないですからね。何百億円も投入するから1兆円の企業ができるのに決まっていますからね。だから、どうしたら、そういう巨額の投資とコーポレートガバナンスが両立するのかですよね。
【横山】 我々は現在、580億円のファンドを運用していますが、これは、制度上1社に対して1割まで投資ができることになっているので、58億円の投資ができるファンドなのです。先日あるベンチャー企業の総額111億円のファイナンスの内、リードベンチャーキャピタルとして弊社だけで38億円の投資を決めましたが、そういう投資ができるのが、日本のベンチャーキャピタルでは、弊社の他1、2社といったところだろうと思います。
【森本】 そういう投資が成功すると、日本でも案件を絞って集中投資したほうがいいという世論ができてくると思いますね。そうすれば、アメリカの機関投資家の日本市場への評価もずいぶん変わってくると思います。
【横山】 我々は、アメリカのようにはできないわけですからね。ですから、バランス型の投資も行いながら、集中した投資も行うといった投資活動を実践していけばいいのではないかと思っています。


インタビューを終えて

ベンチャーキャピタルが株式上場するあり方は、欧米には例のない極めて日本的な姿である。また、ベンチャーキャピタルが大手金融機関を親会社に持つ系列的な形態も、日本独特のものといっていいだろう。しかし、潤沢な資金を背景にした大手金融機関がベンチャー投資に取り組むこと自体は、決して悪いことではない。むしろ、効率的な組織形態や投資方法が確立されれば、ベンチャー育成の大きな力になる可能性のほうが大きいとすらいえるはずだ。その意味でも、大手証券会社とメガバンクを背後に従える大和SMBCキャピタルが、ベンチャーキャピタル、バイアウト、グロースキャピタルといった総合的なプライベートエクイティを担うキャピタル会社を目指していることは、日本モデルの確立の一つの答えということができると思う。(森本紀行)

次号第33話(2008年11月1日発行)は、安田企業投資株式会社の鈴木孝雄さん、糸川幸男さんが登場いたします。


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