そのような状態の中で、トイレに行くとどこからか視線を感じるのです。ふと下を覗くと、豚が見上げて、自分の餌が落ちてくるのを待っているのです。そこはもう人と動物の境界がない世界です。今までいた日本からは想像できない世界です。身体は痩せていく一方ですが、原初的な生きる力みたいなものがだんだん湧いてきて、元気になっていくのです。あそこで人の生き死にが分かれるのでしょう。死ぬ人は、きっとあそこで死んでいくのでしょう。僕は「死ぬものか」と思いました。
そういう体験の中で、僕はもう一度、どん底まで落ちるのです。何をしたかというと、夜中に空腹に耐えられなくなって、非常用のチョコレートを、こっそりと食べてしまったのです。腹が減ると頭がシャープになるといいますが、実際はそんなことありません。人間はとことん食べられなくなると、考えることは、もう食べ物のことだけになります。
向こうは、ぎりぎりの生活の中で、自分たちの身を削ってまでシェアしてくれたのに、豊かな国からきた自分は、分け与えることもせず、隠れて食べていたのです。俺は、何て卑劣な人間なのだ、人間のくずだと。自分の醜い部分に直面し、落ち込んだわけです。
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