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Vol.026 法政大学名誉教授 法政大学学事顧問 清成忠男第2話 調査
コラム(2)
国民金融公庫調査部
 国民金融公庫は、政府系の中小企業系金融機関です。私は調査部在籍中に小規模企業の新規開業調査を行いました。4、5名のチームで2年間にわたって1,000社以上を訪問しました。なぜ調査を行ったかというと、1963年くらいから中小企業の新規開業が増えてきたのですが、増えている理由についてプラスの理由が見つからなかったからです。一般にいわれていたことは、中高年層が職を失い、仕方なく自分で中小規模の企業を始めているという説明でした。
 しかし、経済が高度成長している現状があるのに、その説明は合わないわけです。実質経済成長率が年率10%でしたから、今の中国のような状況です。失業率も実際はかなり低かったのに、失業した中高年が中小企業を始めているというのも疑問でした。
 実際に調べてみると、中小企業を興しているのは主に20代で、とくに25歳から32歳に集中していました。その年代が失業しているわけはない。一般に流布している通説がまったく間違っていたのです。首都圏と近畿圏でその傾向が顕著で、中小企業の数が増えていました。
 しかも、その中には従来の中小企業と趣の異なる企業が出てきていました。それがいわゆるハイテク分野の企業でした。それまでは経営者の学歴も、多くが中等教育、旧制なら中学、新制ならば高卒であったのに対し、新しい中小経営者の多くは大卒、なかには博士号を取得した人もいました。また、大手企業勤務経験者というケースも多くありました。

頭脳を売る小さな大企業
 昭和30年代の終わりごろ、中村秀一郎先生が「中堅企業論」をお書きになられ、中小から中堅に上がり、まだ大企業になっていない企業が増えていて、その経営者の学歴を見ると、旧制の専門学校出身が多いという指摘をされていました。学歴が高ければ、そこで修めている学問レベルも違う。昭和20年代の旧制専門学校以上の進学率は、おそらく5%から6%。ですから、エリートだったわけです。ダイエーの中内功さんは兵庫県立神戸高等商業学校(現兵庫県立大学経済学部経営学部)出身で、オムロンの創業者・立石一真さんは、熊本工業高等学校電気科(現熊本大学工学部)出身ですからね。
 中村秀一郎先生との出会いは、社団法人日本経済調査協議会という財界の調査機関の中小企業委員会に出席したのがご縁でした。委員会で、最近、中小企業の新規開業が増えているのを調査するつもりだと話したところ、中村先生が飛んできて、ぜひ一緒にやりましょうと声をかけていただきました。中村先生から、日本長期信用銀行で新しい中堅企業調査を手がけていらした平尾光司さんと繋がっていき、3人で中小から中堅規模の企業までを調査することになりました。
 調査では、それまでの中小企業と比べて、見るべきポイントが違っていたことがわかったのです。知的分野が急速に伸びていたのですね。たとえば、マーケティングという分野です。当時、そういう発想はあっても未開分野で手がつけられていなかったのです。それ以降、新興分野が輩出してきました。調査の結果を、3人で『ベンチャービジネス〜頭脳を売る小さな大企業』という本にまとめて、1971年に共著という形で日本経済新聞出版社から出版しました。




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