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Front Interview
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Vol.030 シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役 渋澤健第1話 アイデンティティ
コラム(1) パーソナル・データ(1)
非営利から営利の世界へ
 ビジネススクールに戻り、非営利の世界から営利の世界に舵を切ったのですが、ちょうど1980年代半ばで、日本はバブルの渦中でした。当時、日本人でMBAを持っていれば、ウォール街がウェルカム、という感じで積極的に採用してくれました。
 1987年にファースト・ボストン証券に入社し、外国債券を担当しました。自分の父親が銀行員だったこともあり、一つだけやりたくない職業と思っていたのが銀行でした。日本でいうところの安定した職業としての銀行員に対して関心はありませんでしたが、気がついたら、自分もビジネススクール在中の1986年の夏にインターンとしてお世話になったJPモルガン銀行に1988年に入っていました。
 ただ、お金を貸す・借りるという仕事ではなく、マーケット関係の仕事で国債や先物、または為替オプションのトレーディングをしていましたが。その後、1992年にJPモルガン証券でふたたび国債を担当、1994年にゴールドマン・サックス証券で国内株式・デリバティブを担当するなど、同じ金融の世界で、ステージを変えてきました。

自分に対する投資
 私自身の転職に対する考え方は、その次のステージに立った時に選択肢が増えるかどうか、という点で、そこに重きを置いてきました。一つのプロダクトの専門家になってしまうと、つぶしの利かない人間になる恐れもあります。例えば、同じ仕事でA社からB社へ移ったとして、給料は上がるけれど、さらその次のステージに行った時に、選択肢が増えるかどうか、それが転職に対する一つの考え方だと思っています。
 転職することによって、次に取れる選択肢の札が増えるのであれば、転職するべきです。自分に対する投資として一つの資産になりますからね。でも、それをすることで給料は上がるかもしれないけれども、会社側から見た場合の自分のコストが上がってしまい、さらに一つのプロダクトに特化した専門家になってしまうと、それがうまく回っている間はよくても、プロダクトが滞った場合はアウトです。
 独立を考えた時も、それが一つの大きな判断基準でした。ダメなら、考え直せばいいわけで、前進することによって、次の選択肢が増える可能性があるかどうか。当然、確実性はないわけですから、それ自体、リスクです。でもリスクを負うことでリターンがあるのであれば、それでいいだろうと。そういう意識が転職を後押しするきっかけになりました。

リスクとリターン
 リスクがわからないという人がいますが、リスクというのは不確実性ですから、もし何がリスクなのかがわかったとしたら、それはもうリスクではありません。もう一つ、リスクを取るということは、裏を返せば、それなりにリターンがあるということです。そういう意味で日本人は、むやみにリスクを取って失敗して、左遷されたり首になったりするより、リスクを取らなければ自分の身は保証されるし、それなりに豊かな生活ができるから、いいじゃないかと、極めて合理的な判断をしていると思います。
 リスクを取る人が報われるような社会になっていけば、リスクを取る人も増えていくと思いますが、そうではない。今の時代、リスクを取ることに対するリターンが見えなくなっていて、だから若い世代の人から見ると、一つの会社に勤めても、最後は左遷されたり、リストラされたり、ああいうふうにはなりたくないよねと。だったら、会社に勤めないでフリーターでいいと。それはある意味、極めて合理的な判断だと思います。
 私の父は、ずっと同じ会社に勤めていて、その会社の紹介で、また10年くらい勤めましたから、あの時代の典型的な日本人としての人生の歩み方だったと思います。でもそういう生き方は、私自身はあり得ないことと感じており、だからこそ、リスクを取りながら職を転じて、自分の会社を立ち上げたわけです。もちろん、自分で立ち上げた会社は、自分の名前を付けているので、一生続けていかなければならないと思っています。

(8月13日更新 第2話「選択」へつづく)



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