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Front Interview
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Vol.030 シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役 渋澤健第3話 家宝
コラム(3) パーソナル・データ(3)
“知・情・意”
 私の先祖である渋沢栄一が、「偉き人」と「完きの人」という言葉を残しています。「偉き人」というのは、どこか飛び抜けたところがある人で、それで短所をカバーできるひとをいいます。一方、「完きの人」というのは常識の人のことで、“知・情・意”のバランスがとれている人だというのです。常識があるかないか、ではなくて、この3つがバランスよく育くまれていることが肝要で、もしどれか一つが秀でているのであれば、他の2つもバランスを保つために高めなければならないということになります。
 そして、社会が必要としている人間というのは、「完きの人」だと、理想論として語っています。こうした言葉を手がかりに考えてみると、日本人の特徴は、「偉き人」よりは、“知・情・意”のバランスが取れた「完きの人」かもしれません。“知・情・意”のバランスというのは普遍的な考え方で、経営学者のジム・コリンズ氏が「ビジョナリーカンパニー2〜飛躍の法則」という自著の中で、「Great Company」の経営者に共通する点として、まずNo.1になろうという意志があるか(=意)、何に情熱を持つか(=情)、そして何が経済的なエンジンになっているか(=知)、という3つをバランスよく兼ね備えているといっています。コリンズ氏がいう「Great」には、「偉き」というより「完き」の要素が含まれているようですね。
 有名なフランク・ボーンの「オズの魔法使い」でも、主人公のドロシーと共に行動する3人の仲間が登場しますが、かかしは「知」、ブリキのロボットが「情」、ライオンは「意」を象徴しており、それぞれがその欠損を取り戻していくという物語でした。このように「知・情・意」のバランスというのは普遍的な考えとなっています。

凡人という人的資源
 日本は資源が乏しい国とよくいわれますが、実は日本というのは、人的に素晴らしい資源を持っている国ではないでしょうか。ずば抜けた頭脳を備えている人材が多い、ということではないかもしれませんが、普通の人が備えている人的能力の平均レベルは非常に高いと思うのです。能力的にも性格的にも飛び抜けて優れた人は少ないかもしれませんが、逆にまったくダメな人というのも少ない。真ん中に位置する普通の人、いわゆる“凡人”が多く、その能力レベルが高いのです。
 そう考えると、日本や日本人というのは過小評価されているか、もしくは、世界から期待されているのに、それに日本が応えていないのではないか、そういうことを強い問題意識として持っています。つい最近、インドに行く機会がありましたが、デリーで知り合った公共事業関連の企業の幹部が「日本の技術は素晴らしいので、我々としては不安なく購入できます。他の国の製品は、購入前に入念に精査しなければなりませんが、高い技術力がある日本の場合は問題ありません。しかも今はユーロ高で、価格的にも日本の製品は競争力があり、魅力的です」と話していましたが、海外で日本に対する期待度は非常に高いのです。
 でも、その一方で、「欧州勢は、我々に直接、売りに来てくれますが、日本人はなかなか直接アプローチしてくれない」というのです。結局、どこかの代理店を通じてしか購入できないのです。もちろん日本側からすれば、直販にはいろいろリスクがあり、代理店を介在した方が合理的です。しかし顧客にしてみれば、その商品に込められた精神や想い、プロダクトが創り出された意味といった、まさに専門性が問われる部分について、直接作り手の声を聞きたいとか、コミュニケーションしてほしいというニーズがあるのです。しかし、そこに代理店が介在すると、数あるラインナップの中の一商品すぎなくなってしまいます。



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