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Vol.030 シブサワ・アンド・カンパニー株式会社代表取締役 渋澤健第4話 コモンズ
コラム(4) パーソナル・データ(4)
時間軸という視点
 これまで携わってきたヘッジファンドやオルタナティブ投資というものは、一言でいえば、運用の世界でいかに職人の目利きを表現するかということでした。しかし、日本の投資信託は、販売会社が売る商品を供給する工場であって、職人の目利きより、売れるものを出せばよいという傾向があります。ファンドというのは、投資家から預かったお金をいかに効率的・合理的に運用してお返しするかというところに目的があり、それゆえ「より高い価格で、より短い期間で」がキーになります。
 その方が資本の効率性が高まり、次の投資案件に再投資できるからです。こうした視点はもちろん重要です。ただ、そこには企業が事業を発展させていくために要する時間軸という視点が抜け落ちています。企業の株価、つまり縦の軸では、ファンドと経営者と目的が合致するものの、時間という横の軸で考えると目的が合わない、というのが、ファンド資本主義の限界であると思います。経営者サイドがファンドに対して、いいところで買って高いところで売り抜けるハゲタカファンドか、グリーンメーラーというイメージを持っているのもそのためです。
 私自身は、長い時間軸で動かせるお金、例えば長期的な視点を持てる個人の投資家のお金を集めれば、今のファンド資本主義の限界を乗り越えられるかもしれない、そう考えています。この発想の一つのきっかけになったのが、「さわかみファンド」の澤上篤人さんとの出会いです。自分が独立したタイミングで、当時、さわかみファンドは300億円規模で飛躍の前夜でした。澤上さんは自らの熱い想いと行動力で、16億円からピークには2,700億円というお金を、販売会社を通さずに個人から集めています。投資信託でこういう「オルタナティブ」ができるというのは、衝撃的でした。澤上さんとの交流、そしてご奨励を通じて、今までの自分の経験を基に、自分自身が取り掛かりたい次のステージが見えてきました。

非合理の中の可能性
 澤上さんにお金を託す投資家の多くは、澤上さんを見て投資しています。そういう意味では先にある投資先企業300社のポートフォリオがどこか、ということより、澤上さんに賛同して、というところが大きいのです。でも私が仲間たちと描く投資信託は、個人投資家に投資先企業の顔が一つ一つはっきりと見えるものです。一方、経営者から見た個人投資家のイメージは、デイトレーダーか総会に来るうるさい人という認識で、そうした人たちよりも、顔の見える大口投資家と向き合う方が合理的と考えます。
 でも、そういう合理性だけでなく、非合理的なところにも大切な視点があり、そこに新しい可能性を見出したいのです。私たちは個人投資家のことを“生活者”と呼びますが、彼らは、その企業の最終顧客や従業員同様、企業の理念を理解し、成長を永続的に応援してくれる可能性を持っています。そういう生活者と経営者、企業の間の双方向的な対話の場を創りたいのです。ですから、300社では無理で、30社ぐらいに限定したいと思います。
 企業価値を創造するのはファンドではありません。経営者であり、従業員であり、その商品を購入する生活者です。そういう価値創造の当事者が出会い、お互い建設的に対応できるような空間を提供できれば、意義があると思います。

想いをつなぐものとして
 自分が澤上さんの投資信託に投資を始めたのは、子どもたちが小さいので、成人した時のために、毎月積み立てをしたいと思ったのがきっかけでした。口座を開設して毎月買い付けるのは、生命保険の口座引き落しと同様の感覚ですし、相場が上がれば良かったと思うし、下がれば安く買えるわけで、気持ち的に楽です。マーケットの売り買いだと、ここで売ろうという「縦の軸」しか考えませんが、長い目で20年30年経った時に大きくなればいいわけで、今からそれを考えなくていいという「横の軸」の投資は、すごく楽だと感じました。また、「縦の軸」の投資をしながら、または自分の本業に従事して給料をもらいながら、同じ財布でゆったりと実施できる「横の軸」の投資に魅力を感じました。
 株などに投資するのは、今の自分のためというのも一つの価値判断ですが、次世代に想いを伝えるという視点があってもいいはずです。機械と生き物の違いは、生き物は次の世代に伝えていく遺伝子を持っていることです。生き物は必ず死ぬので、時間軸は限られていますが、その想いを次の世代に伝えることで進化させられます。これは素晴らしいことです。今まで注目を浴びている運用というのは、いわば機械論で、非合理的・非効率的なところに合理的・効率的な切り口と目線で投資すれば、価値創造できるという思想です。でも、そこには限界があり、すべてではありません。
 機械論に対置する運用として生命論を活かした方法もあると思います。生命はいろいろな矛盾を抱えながらも、目的に対する持続性があります。先のことは誰にもわかりませんが、30年後があるとしたら、その時に自分の家族や友人が幸せに暮らしてほしいというのは、誰にも共通する願いです。そのために何ができるのか、それを今から一緒に考えていきましょうということで、長期的な視点に立って、どういう企業が成長・発展し活躍しているかを今から考え、少しずつ積み立てていくという投資のありようも一つの可能性だと思います。



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