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Vol.031 株式会社ガバナンスビジョンズ代表取締役社長 小林久仁子第3話 ガバナンス
コラム(3) パーソナル・データ(3)
議決権行使との出会い
 派遣社員としていろいろな銀行で働いているうちに、たまたま東京証券取引所(以下、東証)から派遣会社を通して私にオファーがきたのです。これは本当に幸運でした。東証に勤務したことで、自分がやりたいと思っていた議決権行使という仕事に出合うことができたからです。母親の言葉を借りると、これは「神のお告げ、神のお導き」ということになるらしいのですが、そう思えるほどの大きな人生のターニングポイントになりました。
 課長職として採用が決まった2002年から東証でも女性の総合職が誕生し、女性の活躍する場が広がったと時期でもあります。しかし、何十年かぶりで組織に戻ったわけですが、派閥や人間関係の壁に何度も突き当たり、仕事はなかなかスムーズに運ぶことができませんでした。
 それでも東証ではいろいろなことを勉強しました。東証は、証券業界と違った特殊な機関であり、東証でしか学べないことを学ばせていただき、現在の会社を起業するときの原動力になりました。東証には2年間ほどお世話になり、その後はIRRCという議決権行使関連の情報サービス会社に勤務し、議決権行使の代行業務に携わりました。また、コーポレート・ガバナンスに関わる情報サービスなどの商品開発なども担当し、二度目の起業への基盤作りもできました。

日本にコーポレート・ガバナンスを
 コーポレート・ガバナンスは米国から出てきた考え方です。日本語では企業統治と訳されていますが、会社の内部統制の仕組みや不正行為を防止する機能を示します。企業が社会や投資家のために、どのような経営活動をするべきかを示す考え方でもあります。株主たちが会社に対して牽制する意味で、いろいろな仕掛けや手法などが出てきています。今から20年くらい前に米国で盛んに議論されたコーポレート・ガバナンスは、2000年の証券不況のころに日本でも学者の間で大きな話題になりました。
 その翌年には日本でも、経営学、経済学、法学の立場から学識者の論文が多数発表されたのですが、残念なことに具体性に欠けるものが多かったのです。どれもビジネスにつながるようなロジックはなく、机上の空論になっていました。日本でもコーポレート・ガバナンスは大切な概念として、株主や企業も大変な興味を持っていたのですが、学識者の議論が空転してしまったわけです。投資家もコーポレート・ガバナンスは大切だけど、それより株価が上がったり下がったりのほうが重要という風潮が強かったようです。
 それでも2002年頃からコーポレート・ガバナンスを議決権行使の中で実現していこうという動きが出てきました。機関投資家の中でも、当時の厚生年金基金連合会(現・企業年金連合会)が、米国の水準に追従する活動を始めるようになりました。私はこれをビジネスにしようと考えたわけです。日本におけるコーポレート・ガバナンスを実現させるために、もっと具体的に投資家をサポートするインフラを作ろうと思い、IRRCがISSに吸収合併されたことを機会に、2005年10月にガバナンスビジョンズを起業しました。

(9月24日更新 第4話「金融」へつづく)



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