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Front Interview
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Vol.033 リッキービジネスソリューション株式会社 代表取締役 澁谷耕一第1話 退職
コラム(1) パーソナル・データ(1)
財務アドバイザーとして
 昔の銀行と企業は、会社の経営状態よりも、一緒にゴルフに行くとか、酒席をともにするとか、お付き合いの長さや深さが重要でした。企業の収支・財務状況だけではなく、経営者がいかにメインバンクの支店長と懇意であるかという、双方の親密度が融資するときに関係したわけです。ところが、今から10年ほど前に不良債権問題が起こると、銀行が融資したお金が本当に戻ってくるのかという企業への審査が厳しくなりました。
 そして、長期で融資を受ける場合は、従来のように年1回の決算書の提出だけではなく、2年後、3年後に会社はどういう経営をして、どんな財務状況になっているのかという「事業計画」が問われるようになりました。今後3年間、こういう戦略やビジネスモデルで業界の競争に打ち勝ち、どのように融資を受けた資金を活用して利益を出し、そして返済していくのかという経営のシナリオやストーリーを提出しないと、銀行は融資しないようになったのです。
 私は24年間、興銀の行員として法人営業の仕事に携わってきましたので、企業に対する長期の融資に関する案件は得意分野でした。融資時の企業審査などをしていましたので、企業経営者側の立場になって、銀行から融資をしてもらうノウハウ、銀行とのお付き合いの仕方などをコンサルティングする「財務アドバイザー」として仕事ができるのではないかと考えました。それで自宅の居間にパソコンを置いて、単身で起業したわけです。

不況の時こそ、起業すべき
 起業するにあたって、私の背中を押してくれたのがフューチャーアーキテクトの金丸恭文会長です。2001年12月に、ニュービジネス協議会主催の起業フォーラムが行われました。当時、みずほ証券の公開営業部長だった私は、有望なベンチャー経営者と知り合いたいと思い、このフォーラムに参加しました。いくつかの講演が行われましたが、私は金丸会長の講演に参加の申し込みをしました。そこで金丸会長は「不況の時こそ、起業すべき。1929年のアメリカの大恐慌の時も多くの人が起業した」と話されました。
 2001年はデフレ経済の真っ只中でした。起業しても大丈夫かなという不安を抱えていた私は、金丸会長の話を聞いても、すぐには納得できませんでした。金丸会長は「不況の時は、人件費や家賃、材料費など、すべての経費が安く済む。ヒト、モノ、カネの経営資源の乏しいベンチャー企業にとっては好都合である。また、不況のときこそ、知恵の勝負ができる」とお話を続けました。「そうか、知恵で勝負するのか」と納得し、それまでの不安が吹っ飛びました。現在、世界経済は金融危機でどんどん悪い方向に向かっています。このような時こそ、知恵を使って、新たなビジネスを創造し、需要を生み出していく努力をすべきなのでしょう。

半分母親
 親しくご指導いただいている千葉銀行の竹山正頭取は「CSの原点は家庭にあり」とおっしゃっています。CS(Customer Satisfaction)とはお客様の満足度評価ですが、サービスする側の人間の家庭がハッピーでないと、お客様の幸せ、満足は得られないと言うのです。家庭で奥さんとケンカをしたり、子どもとうまくいっていないような人間がお客様に笑顔で接したりできないだろうというわけです。自分が笑えばお客様も笑顔になります。だから家庭は大切というわけですが、この考え方には感銘しました。
 妻が生きているときは、仕事一辺倒みたいなところがありました。ただ、子どもたちにサッカーを教えるなど、わりと子どもとの接点は持っていました。妻が亡くなって、起業してからは仕事より家庭に比重を置くようになりました。子どもから携帯電話に電話が入って、帰りに本を買ってきてほしいと頼まれると、二つ返事で買って帰りますから。社員からは少しやり過ぎと注意されることもあります。私としては、母親がいないことで子どもたちに引け目を感じさせたり、寂しい思いをさせたりはしないという思いがあるのです。自分ができるかぎりのことはやってあげたいと思っています。
 週末の土曜か日曜のどちらか1日は、家族全員で食事をしています。高校2年生になった娘と一緒に買い物にも行きます。子どもが口を聞いてくれないということもないし、娘からは彼氏の話も聞きます。子どもたちにしてみれば、僕は半分母親なのでしょうね。グループ会社にいる弟(澁谷成生社長)とも温泉旅行に行きますし、母とも仲が良く、毎日のようにメールを送り合う間柄です。家族関係が良好でないと、いい仕事ができないという竹山頭取の言葉は素晴らしいと実感しています。


(11月12日更新 第2話「使命」へつづく)



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