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Front Interview
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Vol.027 株式会社ライトレール 代表取締役社長 阿部等第3話 社会を変える
コラム(3) パーソナル・データ(3)
脱線の再現試験
 2000年、地下鉄日比谷線の中目黒駅で脱線事故があり、その原因究明のために再現試験が行われました。電車の車輪が浮き上がる様子はテレビでも放映されました。実は、その数年前に、私はJR東日本の安全研究所在職時に同種の試験を行っていました。当時、脱線事故防止の研究テーマとして、高崎線の籠原電車区での脱線事故の原因究明を担当していたのです。
 電車には台車が2組あり、それぞれに車輪が2本ずつ左右のレールをまたいで乗っかっています。その台車の調整具合によっては、左右のレールにかかる輪重(車輪の重み)がアンバランスになることがあるのです。そのような状態になるとカーブや分岐器で脱線しやすくなります。私は過去の類似事故からこれが原因だと確信し、皆に分かってもらえるよう再現試験の実施を提案しました。この時も、そんなことできないと反対されましたが、1人1人粘り強く説得して実現にこぎ着けました。
 再現試験では、通常のレールの他に脱線したら車輪が引っ掛かるレールを敷設して、完全に脱線しないようにしました。左右の輪重のアンバランスがある限界を超えると車輪が浮き上がってきて、仮説を実証することができました。この様子をビデオ撮影して車両部門に理解を求めた結果、台車の保守管理を徹底させることになり、同種の事故を撲滅できたのです。こうした経験があったので、日比谷線の脱線事故があった直後には、事故調査を進める家田仁委員長に安全研究所での再現試験の実証データをご説明しました。日比谷線の脱線事故で、すぐに再現試験が実行されたのはそのためです。

細川氏との出会い
 社会は鉄道に利便性を求め、鉄道にはそれに応える手段がある。それによって商品価値が向上すれば、利用者は支払い金額または購買数量を増やす、とずっと考えていました。これは会社の考えとは異なるものでした。社員は皆、「鉄道事業は伸びない。これからはエキナカビジネスが主体だ」と教育され続けています。この組織では自分の考えは通じないと思っていた1998年8月に、ある出会いがありました。
 エンゼル証券の細川信義社長です。「ベンチャーが日本の閉塞感を破ると昔から言われるが、大企業や中央官庁に埋もれて悶々としている能力・意欲を持った人達が飛出して起業してこそ、ベンチャーの成功モデルが生まれ、社会を変えられる」というお話をお聞きし、自分でどこまでできるかは分からないけれど、そういう選択肢もあると気付かされました。
 それを機に、ベンチャー関連の会合への参加と、情報の収集を始めました。大前研一のアタッカーズ・ビジネススクールに参加し、事業計画「環八上空を活用したエイトライナー」をまとめ大前賞を受賞しました。引続き、「最新技術によるタクシー配車システムを活用した乗合タクシー事業」「川崎駅東口地区での路面電車運行」とまとめ、ビジネスプランコンテストで入賞しました。その間、会社に「独立して起業したい」と申し出るたびに「早まるな」と言われました。保線の仕事は決して嫌いではありませんが、鉄道事業は伸びないことを前提にして、利便性向上でなく事故防止と経費節減ばかりにエネルギーを投入するのが嫌でした。

(5月28日更新 第4話「活路」へつづく) 




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