2000年、地下鉄日比谷線の中目黒駅で脱線事故があり、その原因究明のために再現試験が行われました。電車の車輪が浮き上がる様子はテレビでも放映されました。実は、その数年前に、私はJR東日本の安全研究所在職時に同種の試験を行っていました。当時、脱線事故防止の研究テーマとして、高崎線の籠原電車区での脱線事故の原因究明を担当していたのです。
電車には台車が2組あり、それぞれに車輪が2本ずつ左右のレールをまたいで乗っかっています。その台車の調整具合によっては、左右のレールにかかる輪重(車輪の重み)がアンバランスになることがあるのです。そのような状態になるとカーブや分岐器で脱線しやすくなります。私は過去の類似事故からこれが原因だと確信し、皆に分かってもらえるよう再現試験の実施を提案しました。この時も、そんなことできないと反対されましたが、1人1人粘り強く説得して実現にこぎ着けました。
再現試験では、通常のレールの他に脱線したら車輪が引っ掛かるレールを敷設して、完全に脱線しないようにしました。左右の輪重のアンバランスがある限界を超えると車輪が浮き上がってきて、仮説を実証することができました。この様子をビデオ撮影して車両部門に理解を求めた結果、台車の保守管理を徹底させることになり、同種の事故を撲滅できたのです。こうした経験があったので、日比谷線の脱線事故があった直後には、事故調査を進める家田仁委員長に安全研究所での再現試験の実証データをご説明しました。日比谷線の脱線事故で、すぐに再現試験が実行されたのはそのためです。
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