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Front Interview
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Vol.028 ウォーターグループ代表 坂井直樹第3話 コンセプター
コラム(3) パーソナル・データ(3)
エレクトロニクス・エイジ
 日産Be−1のデザイン開発に関わって、いろんなことを学びましたが、ただ、その時も今も変わらない僕自身の考えは、洋服も自動車も時計もデザインという視点から見れば同じだということです。それは、カーデザインという領域に足を踏み入れたことでわかった回答で、たとえば僕がずっとファンション関係のデザインだけやってボーダーを越えていなければわからなかったことです。
 なぜそのように感じたのかというと、20世紀では、あらゆるもののデザインがパッケージデザインだったのです。フェラーリだって、シャーシがあってエンジンが付いてマフラーのレイアウトは、すでにエンジニアによって決められているというように、カーデザイナーが考える範囲はある程度限られてきます。全部組み上げたマシーンに対して、パッケージングするようにデザインを描いていく作業はファッションも自動車も同じことをしているのです。
 一方、21世紀になるとデザインはユーザーインターフェイスとしての役割を果たすため、パッケージもコンピュータというハードウエアやOSというテクノロジーと結合されている点が特徴です。1970年代以降、機械はどんどん電子化されました。電話の回転式ダイヤルは人間が指で回す時間の長さで1とか2を計測したものだったのが、今は数字キーをプッシュするだけで1も9も同じスピードです。要するに車はマシーン・エイジ、携帯電話はエレクトロニクス・エイジのデザインなのです。自動車も最終的にホイルインモーターといって車輪の中にモーターが入って、あとはコンピュータ制御になり、ブレーキもガソリンもいらなくなります。それらの新しい技術が新しいデザインを生み出します。将来的には世の中からすべての機械が消えているかもしれません。

気分や欲望をデザインする
 1988年にオリンパスの「O−Product」を山中俊治さんとデザインしたのですが、このカメラは逆転の発想で、エレクトロニクスをあえてマシーンのようなパッケージに見せようと思ってデザインしました。全世界2万台の限定商品でした。カメラのボディはブラックのプラスティックが常識だった時代に、アルミニウムを使用しました。昔ながらのカメラのイメージとエレクトロニクス時代のコラボレーションです。このカメラを持てば、過去にも未来にも自由に時空を越える気分を味わえるという、フューチャー・レトロがコンセプトでした。
 翌年に3カ月の期間限定で発売された日産のPAOは、一言でいうと映画「インディ・ジョーンズ」の世界を形にした車です。本当の冒険に使用する車ではなく、“都市の中で冒険気分を楽しむ”ためのシミュレーションカーとしての発想がありました。その後、PAOやBe−1は最高で2倍近い価格のプレミアムがついて中古車市場で売られるようになっています。もともとはプレミアム性の高い限定販売だったことに加えて、商品コンセプトそのものが消費される時代性がヒットにつながったのだと思います。
 僕は自分の肩書きをコンセプターと称していますが、簡単にいえば気分や欲望を色や形にするデザイナーです。時代を流れる気分やユーザーが抱いている欲望を商品という形にする仕事だと考えています。また、同じ素材や機能を使って時代やユーザーが求める商品に作り直すことも、コンセプターの役割だと思っています。



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