起業家・ベンチャーキャピタル・投資家を繋ぐコミュニティ・マガジン

Front Interview
第1話 第2話
第3話 第4話
Vol.028 ウォーターグループ代表 坂井直樹第3話 コンセプター
コラム(3) パーソナル・データ(3)
ダ・ヴィンチ以前の世紀
 Be−1のコンセプト開発が新聞や雑誌などのマスコミで注目を集めるようになると、僕のオフィスには大企業から仕事の依頼が殺到するようになりました。これまでに、自動車、カメラ、時計、オートバイ、アルコール飲料、男性化粧品、ビデオカメラ、ガスレンジ、ワンセグTVなど、数多くのプロダクトを手がけてきました。今は、auの外部ディレクターとして、au全体の携帯電話のデザインに関わっています。
 こうして、いろいろな企業の担当者の方々とディスカッションをしたり、あるいはセミナーや講演会に招かれたりするなかで感じることは、物事を機能的、合理的にとらえすぎるところです。自動車メーカーには車に設置する灰皿のデザインを専門としているデザイナーがいるという話に耳を疑いました。このようにデザインワークが分断されていては、デザイン本来のポテンシャルが失われてしまいます。エンジニアもプランナーも、自分の専門範囲しか見えなくなります。
 たとえば、レオナルド・ダ・ヴィンチの世紀では、1人でたくさんの職を持っている人が大勢いました。ダ・ヴィンチは海洋学者で芸術家でインダストリアルデザイナーであると数えていくと、少なくとも何十種類の専門職を彼1人でこなしていたわけです。現代にはそういう人間はいません。では、人間が退化したのかというと、そうではありません。これは社会が要求したものです。あなたは写真を撮りなさい、あなたはイラストを書きなさいと専門化することで、効率とか機能的とか合理的といった生産性至上主義として社会が動いたからです。

起業人から創業人へ
 もはや日本は世界の工場という立場を韓国や中国に譲ったほうが僕はいいと思っています。日本は製品のプロトタイプとなるものを作る国になるのがベストでしょう。次に何が来るかという意味での本来のプロトタイプです。僕は任天堂のWiiがその典型だと思っています。体重計をゲーム機にして、その上でヨガをやったり、ウエイトトレーニングをしたりする、そのイノベーションはすごい。世界のどこの企業を探してもこうしたゲーム機は作っていません。
 EUの人たちと議論する時、話題に上るのは、日本の企業ではレクサスのトヨタとWiiの任天堂だけです。任天堂は企業価値でいうと10兆円を超えて、ソニーやキヤノンを追い抜いたといわれています。しかも商品ラインナップを見ると、ものすごく少ない。新商品もハードウエアは毎年3つくらいしか出さない、しかも誰もが遊べる製品です。Wiiは、おじいちゃんやおばあちゃんが孫と一緒に遊べるという新しい文化を生み出したんです。しかも岩田さんという社長は41歳の若さ。任天堂は一番注目している企業ですね。
 過去に何度か起業ブームがありましたが、ブームに惑わされない起業が大事だと思います。次世代を作るクリエイティブな起業家を僕は創業人と呼んでいます。昔でいうと、戦後すぐのベンチャー企業であるソニーの創業者・盛田昭夫氏、本田技研の本田宗一郎氏は創業人でした。21世紀の社会をリードし、活発な市場を新たに創造していく人が、僕がイメージするアントレプレナーです。

(6月25日更新 第4話「育成」へつづく)



HC Asset Management Co.,Ltd