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Front Interview
第1話 第2話
第3話 第4話
Vol.028 ウォーターグループ代表 坂井直樹第4話 育成
コラム(4) パーソナル・データ(4)
クリエイティブの遺伝子
 今年の4月から週2回、慶應義塾大学の教授としてコンセプトワークやデザインのディレクションについての講義を持っています。400人と60人の講義、20人のゼミと3つの教室を受け持っています。ここで僕が60年かけて築いてきたデザインの仕事を受講生にショートカットして、これまでのプロセスを飛び越えてもらいたいと思っています。そこからスタートアップして、どこまで伸びていくかを見ていくことを楽しみにしています。僕が持っているクリエイティブに関する知識は、惜しまず全部学生たちに提供しようと思っています。
 今後5年は教育分野に注力していきたいと考えています。デザインをどのように企業に説得するか、その上でどのアングルに焦点を絞るか、そのコミュニケーションの方法論や、コンセプチュアルスキルやヒューマンスキルなど、なるべく実践的な講義をしたいと思っています。
 かつて故・黒川紀章さんが、「みなさん、人間は死んだら終わりと思うでしょ。確かにそうですけれど、あなたが残した言葉、写真、建築、デザインは全部残ります。その影響を受けたジェネレーションの人たちが新たに何かを作っていくということは、その中であなたが生き続けていることになります」というスピーチに大変感銘を受けました。人間が子どもを作って自分の遺伝子を残すように、クリエイティブしたモノも文明的な遺伝子になって残るわけです。我々がこれまでに何をやってきたか、生きていることはいかに重大なことか。学生たちに伝えていきたいですね。

アートとサイエンスの融合
 月に行くことを夢想した科学者が描いたロケットのスケッチが残っていますが、実際に初めて月面へ有人着陸したアポロ11号とは形が違います。ただデザインは別にして、テクノロジーに関してはほとんどのことを人類は実現しています。さらにITの中核としたエレクトロニクスの時代になって、デザインもただ目に見える部分だけを扱うのではなく、ユーザーインターフェイスやOSといったテクノロジーとも密接に結びつくようになってきています。これからはアートとサイエンスが一緒になる時代がやって来るのだと思います。
 慶應義塾大学だけではなく、東京大学、早稲田大学などの理系の学部でもデザイン部門のカリキュラムがどんどん強化されています。芸術の中にデザインがあるのか、工業の中にデザインがあるのかと考えた時に、実際は工業の中にあったほうが合理的なのです。アートスクールに進む人は文系ですが、携帯電話を作っている人はエンジニアで、数学がわからないと今の製品開発には関わりにくいのです。
 僕のパートナーにロボットをデザインしている山中俊治さんという天才がいるのですが、彼は東京大学の工学部を卒業して日産自動車に入社した後に造形の勉強をした人間です。大学では機械工学を学んだ科学者がプロダクトデザイナーになっているわけです。理系のエンジニアがデザインというスキルを身に付けるケースはこれからも増えてくるでしょう。科学者と芸術家が一体となった人たちが、クリエイティブに大きく関与してくる時代がすぐそこまで来ているのです。

次号(2008年7月2日発行)は、 株式会社アールテック・ウエノ取締役の岩崎俊男さんが登場します。



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