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Vol.029 株式会社アールテック・ウエノ取締役 岩崎俊男第4話 深化
コラム(4) パーソナル・データ(4)
投資をしていないキャピタリスト
 現在は、3社の取締役と1社の監査役をしています。4月9日にヘラクレスに上場したアールテック・ウエノは、ファウンダーが立派なサイエンティストで、かつ事業センスもある方です。自分で薬を創って、会社を店頭公開させるという日本人としては稀なケースですね。アメリカでも創薬に成功しNASDAQで上場しました。日本のほうは最初の開発品である緑内障治療薬の収入をベースにドライアイなどの眼科疾患向け新薬や育毛剤の研究開発・製造を行っています。一方、セルフリーサイエンスは、愛媛大学の遠藤彌重太教授の蛋白合成技術を事業化しようという目的で作られた会社で、6〜7年苦労し続けていますが、グローバルに顧客ベースが拡大して少しずついい方向に向いてきています。
 今はある意味、投資していないキャピタリストみたいなものですね。バイオに特別な知見があるわけではありませんが、自分としてはテクノロジーベンチャーに対するサポートができれば素晴らしいと思っています。そういうところは、祖父と父のDNAなのかもしれません。テクノロジーベンチャー自体が今の日本にいちばん欠けている分野ですが、仮に日本に独創的なテクノロジーがあったとしても、それを支える仕組みがないことだけは確かですからね。
 発想のユニークさという点でいうと、日本にはグーグルのようなものは生まれないのかもしれません。遠藤教授の技術でも、徹底的に小麦胚芽をきれいに洗いぬいていくところに新しい展開があって、その技術を掘り下げていくものですし、上野博士はプロスタグランジン(生理活性物質の一種)の体内における代謝物に薬理効果があるのではないかと、20数年間も研究を続けて成功したものです。そういう“一所懸命”なものの上に、何かがあるという気がしているのです。

一つの道を究めていく
 日本人の持っているDNAの中には、一つの道を究めていく、掘り下げていく、という資質があって、テクノロジーも、ある一つの工夫をして、地下の鉱脈を掘り進むようにしていくことで、それ自体に価値が生まれていくパターンが多いと思います。そういうものが世の中に出てきた時に、その成長を支えるフィナンシャルなバックアップが必要になるのです。自分が役に立つ間は、たぶん今のようなことを続けていくでしょう。
 社外取締役というのは本来、自分の知見を活かして会社のガバナンスに関与していくのが筋で、株主の利益を代表するという意味では重要なポジションです。シンプルにいえば、「私は株主に対して責任がある」という一言で終わるものです。経営陣に対するアドバイスをするような立場にはないのが社外取締役ですが、私は、本来の社外取締役の役目である株主に対する責任も果たしながら同時に、経営者に対して助言をする、一緒に苦しむ、ということをしてみたいと思っています。ベンチャー企業の場合は、株主に対して責任がある、というシンプルなグローバルスタンダードの世界とは違う社外取締役の行動規範というものを考えていかなければならないと思います。それが成長過程にある企業にとっての有益な社外取締役のあり方なのではないかと思うのです。
 ベンチャーキャピタル出身者として、こういう発言をするのは妙かもしれませんが、出資して投資を回収したら、「よかったね」で終わっていたのが、これまでのベンチャーキャピタルの世界です。でもその一方で、その会社が公開した時に、企業価値が継続的に高まっていくような会社に創り上げていく責任というものも、本来はあるべきだと思うのです。売っておしまいではない文化が、日本の大手ベンチャーキャピタルの世界にも醸成されてくれば、この世界はもっと変わっていくのではないでしょうか。そういうことに少しでも自分が役に立てればと思っています。

次号(2008年8月6日発行)は、シブサワ・アンド・カンパニーの渋澤健さんが登場します。



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