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Front Interview
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Vol.032 株式会社船井本社 代表取締役会長 船井幸雄第2話 理

こだわる人間ほど程度が低い
 大学は、京都大学農学部農林経済学科を卒業しました。生家が農家であり、当時の風潮もあってマルクス経済学に興味があったという程度の動機です。大学生活はごく平凡で、実家の農作業を手伝い、その合間に大学に通ったので、思い出といえば、友人たちとよくお酒を飲み、京大の学風の自由を謳歌したことでしょうか。結局、大学には4分の1くらいしか出席しませんでしたが、自分の中にリーダー的、カリスマ的な資質があることがわかりました。
 私たちが子どもの頃は、小作争議が盛んでした。大学の卒業論文は「経済外共生と封建制」。地主小作制度がなぜあるのか、その矛盾を論じたものでした。昔から私は「人を差別すること」が大嫌いだったので、この制度は早くなくすべきだと思っていたら、戦争に負けて地主小作制度は解体されました。それと天皇制にも疑問がありました。今でも皇室にはたくさんの知人がいます。人間的には素晴らしい人が多く、大好きな人たちばかりですが、どうも制度としての皇室とか天皇というものは好きにはなれません。
 もともと資格、肩書き、派閥というものは嫌いです。ビジネスの世界では、さまざまな制約やしがらみの中で生きざるを得ない状況にあるかもしれませんが、物事の本質から離れたことにこだわる人が多いように思えます。物欲や虚栄心、エゴや無理から来る「こだわり」は思い切って捨てたほうがいいのです。資格や肩書きなどは、人間が生きていく上であまり関係のないことだと思います。「こだわる人間ほど程度が低い」と思っています。地上にある制約やシステムなどに頼らない、物事にこだわらない人こそ強い人間といえるのではないでしょうか。

追いかけられる側の人間になりなさい
 私は大学を卒業したら新聞記者になろうと思っていました。人脈がありましたので、就職部に頼らないで全部1人で就職活動をしました。就職難の時代でしたが、幸いに大阪の朝日新聞社でアルバイトをすることができました。与えられた仕事は『週刊朝日』の読者投稿ハガキの整理です。約1カ月間、単調な仕事に明け暮れました。今思うと、新聞記者として人間を追いかける側より、逆に追いかけられる側の人間になりなさいという見えない力が働いたようです。
 アルバイトに嫌気が差し始めていたとき、大阪の街中で思わぬ方に声をかけられました。当時、住友財閥の大幹部だった三村起一さんです。大学時代に少し付き合いのあった財界人でしたが、私は生意気にも三村さんを真正面から何かと批判していました。その私の生意気さが三村さんの印象に残っていたそうです。
 久しぶりに再会したときの三村さんは、財団法人安全協会の会長という立場にあり、働いてみないかと誘われたのです。ハガキ整理にうんざりしていたときですし、協会が発行する機関誌の編集作業もあると聞き、そこで働くことにしました。私が大学時代にさんざん批判していた方の元に就職するとは、人の縁とは不思議なものです。このときに、自分を批判していた人間にも声をかけてくれるという、おおらかな広い心こそ、人間の強さと器の大きさを示すものだと気づかされました。

(10月15日更新 第3話「愛」へつづく)



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