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Vol.032 株式会社船井本社 代表取締役会長 船井幸雄第3話 愛

人間の個性を活かした集団
 昭和44年9月、36歳の私は納得いかないことが相次ぎ、理事会で衝突をして日本マネジメント協会を辞職しました。その数日後に個人経営のフナイ経営研究所を起業し、翌年3月に船井総研の前身にあたる日本マーケティングセンターという会社を設立しました。当時の日本はスーパーマーケットの黎明期でした。私たちは大量消費時代を予測して、スーパー業界の新規開拓に取り組み、新しいマーケティング理論の発想を編み出すことに成功しました。
 私は「アンチ・マス理論」を掲げて、土地や風土の違い、立地条件によって消費者の購買傾向はさまざまであることをベースに経営戦略を立案しました。また、人間の個性を活かした集団こそ、会社の成長に欠かせないことを説きました。その当時、大量仕入れと大量販売のメリットを活かし、店舗のチェーン展開、規格化、マニュアル化といったアメリカ流の「マス理論」を提唱した渥美俊一さんとよく比較されることもありましたが、結局は双方の理論とも競争して勝つことには変わりがなかったのです。
 経営は競争力の結果と、競争相手に勝つことを前提にして戦略や戦術をアドバイスする仕事が経営コンサルティングだと割り切っていたのです。資本主義社会は競争社会です。勝ち残るためには手段など選ばない、勝つことが正しい生き方だと思っていました。今振り返ると、何とも不遜な思考です。しかし、30歳代後半頃から「弱者を踏み潰して勝つことが正しいはずはない。こんな戦術を続けていていいのだろうか」と思うようになりました。

企業は1つのファミリーのようなもの
 創業から社員100人を超える頃までの船井総研は、私の個人プレーでほとんど運営していたようなものでした。しかし、それ以上に社員が増え、会社の規模が大きくなると、人材を育て、社員を信頼し、その長所を引き出して、任せるべき仕事は最大限任せるようにしました。人をどれだけ信頼できるかという能力がトップの器量です。人を信頼できないトップは、人の上に立つ器量が十分に備わってなく、まだまだ未熟だと思います。トップに限らず器量が大きく、懐が広く寛大な人は、人間として本当の強さを持っていると思います。反対に弱い人間は、他者の小さなミスにこだわり、その過ちを許そうとせず、徹底的に非難したり、間違った行動に出たりします。その一つの例がリストラでしょう。
 ある大学教授が鉄鋼不況のときに、リストラを断行した企業と行わなかった企業の10年後の状況を調査したところ、リストラしなかった会社のほうが明らかに業績が伸びていることがわかったのです。リストラを断行するようなトップは、ほとんどがサラリーマン社長です。自分の任期中だけのことを考えて、数字を上げようとして短絡的な措置に走ってしまうのです。トップ本来の役割を完全に放棄していると言えます。
 企業は会社の規模に関わらず、一つのファミリーのようなものです。会社経営のトップにいる者は、自分の家族に対するのと同じような愛情を持ち、どんなに苦しい状況下でも社員の生活は必ず守るという、強い信念が必要です。仮に会社の業績を改善するために、リストラという道を選ぶのなら、その前にまず社長自らが退職金も私財も差し出して、債務や損失などを補填した上で、辞職するべきではないでしょうか。トップには、そういった屈強さと大きな器量などが備わっていなければ務まらないと思います。

(10月22日更新 第4話「良心」へつづく)



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